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「行くわよ」
「はーい」
部屋を出て行くセリアーナと荷物を持つエレナ。
そしてスタスタ歩く2人をやや小走りで追いかける俺。
王都の屋敷でここ1週間お馴染みの朝の光景だ。
「今日は遅れなかったわね」
「ふん!」
揶揄うように言ってくるセリアーナに胸を張って答える。
いつも浮いていたから気づかなかったが、この屋敷の階段って、1段あたり結構な高さがあるんだ。
急いでいるからといって、ポンポン下りると躓いてこけそうになってしまう。
だから手すりに手をついて降りていたのだが、流石にコツをつかんだようで、今朝は無事駆け下りる事に成功した。
まぁ、胸張る様なことかは疑問だが、一つ成長したという事にしておこう。
「おはようございます。セリアーナ様」
玄関を出ると既に護衛である親衛隊隊員が待機し、門前には馬車が見える。
今日はヴィーラさんとは違うもう一人の方。
エイラ・サリオンさんだ。
ヴィーラさんの後輩と言っていたから30歳位だろう。
金髪のポニーテールと鋭い目つきが特徴の女性だ。
「ええ。おはよう」
挨拶をしている2人の隣を抜け、まずは俺が馬車に乗り込む。
俺が馬車の内部を確認し安全を確保してから、セリアーナが乗り込み、その間エレナと親衛隊の隊員が背中を守る。
普段は御者が中を確認するが、今は俺がいる為この順番だ。
降りる時はその逆。
中々の徹底具合だが、万が一襲撃でもされたら、セリアーナにとっても王家にとっても失態になるし、そこは譲れないそうだ。
かといってギチギチに守りを固めても、臆病ととられかねないしで、難しいらしい。
そんな訳で、丁度ダンジョン探索を休止中の俺もいないよりマシだって事で、学院へ同行している。
どうにもね……アレクに質問に行くのは怖いようで、俺にばかり寄ってきて困っていたんだ。
開拓に参加するだけなら特に資格など必要ないが、やはり領主と繋がりがあると箔が付く。
冒険者にとってのゴールの一つ、地元の顔役になれる絶好の機会だし、専属になれる可能性も出てくる。
やらかした「ラギュオラの牙」がその位置にいると聞いたんだろう。
がっつく気持ちもわからなくはない。
わからなくはないが、俺に言われても知らんとしか言えないから、しばらく俺はこっちと行動する予定だ。
◇
貴族学院は市井の学び舎と違い、所謂お勉強をする場所ではない。
ここに通う生徒はそういった事は既に家庭教師に教わっている。
ここで教わる事は、貴族としての立ち居振る舞いや、他国のマナー、常識等が中心だ。
学院は春の1月から冬の1月まで。
今は秋の2月で、残りは2ヶ月そこらだ。
もう終盤といっていい。
この時期に教わる事は、各国の婚約儀式や結婚マナーだ。
貴族にとってお家存続に成り上がり、果ては外交にと、とても重要な事でしっかり時間を使って学ぶそうだ。
そしてその重要なうちの一つ、婚約を盛大に行った者が既に1人いる。
我らがお嬢様だ。
大抵どこの国でも、作法は細かい部分に違いはあっても、大体はその国の王家に倣っている。
セリアーナは王家に嫁ぐわけでは無いが、王族と婚約をした。
メサリアにおける正統なマナーを教わったことになる。
普段は王族、もしくはそこに近しい者が行うそうだが、リーゼルは違うクラスだしこのクラスはセリアーナが行っている。
所々「オホホ」とか交えながら。
「なんつーか……俗っぽいよね」
「お嬢様は注目されるのを厭わないからね」
思わず漏らした言葉にやや苦笑しながらエレナが答える。
同じ部屋の後ろに俺達従者の席もあり、皆真剣な顔でセリアーナの話を聞いている。
この学院に通えるのは男爵以上の子供のみだが、これなら卒業生を名乗る事は出来ないが、同等の知識を得る事は出来る。
いわば聴講生の様なものかもしれないな。
従者といっても一生付き従うわけじゃないし、ここで得た知識をもとに家庭教師なんかも出来そうだ。
商会主等の裕福な平民相手に需要はあるだろう。
そしてこのノリノリで講義しているセリアーナの話も伝えられるのかな……?
まぁ、楽しそうだからいいか。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・16枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・28枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・4枚




