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「……ぅぉぉ」
「わー!」とか「おー!」とか「すごーい!」とかいっそ「きゃー」でもいいけど、そんな感じの反応をしたいんだが、実際に出たのは今の様な呻き声だ。
フィオーラに施術の礼に案内すると言われていたが1月近く経ってようやく実現した。
普通は見学できるような場所では無いのだが、時間制限はあるものの許可自体はすぐに出たらしいが、それよりなにより彼女が協会を辞めるという事が問題になった。
一応彼女は役職こそ無いようだが、メサリア王国魔導士協会屈指の実力者だけに、国内に留まるとはいえ王都を離れる事を大分引き留められたらしい。
セリアーナ経由でそのことを聞いていたし、いざとなればリーゼルに動いてもらうと言っていたが、その必要は無かった。
それどころか、ローブに襟章付けた人が案内役な辺り協会側は彼女に後ろめたい思いもあったんじゃ無かろうか?
まぁ、その辺は俺には関係のない事。
今は王都結界の要「ラギュオラの爪」だ。
王城の敷地内にある、騎士団本部のすぐ目の前にあるやたら厳重な警備態勢を敷かれている施設の地下深く。
そこの床に埋められ、何本もラインが繋がっている。
近いイメージだとパソコンのマザーボードにはまったCPUか。
しかし、爪なんだよなぁ……?
俺と同じ位の大きさがありそうだ。
「大きいでしょう?全長1.3メートル、重さは82キロ。前足の爪だそうよ」
「オレよりデカいんだね……」
俺の身長は120センチちょっとで体重は20キロちょっと。
最近いいモノ食べてるから少しは成長したが、まだまだチビだ。
しかしまぁ……恐竜みたいなのを想像していたが、こんな怪獣みたいなのだったのか。
セリアーナやエレナもだが、東部の貴族達が西部を毛嫌いしている理由が少しわかった気がする。
こんな化け物を倒して勝ち取った土地にあれこれ首を突っ込んでくるんじゃ、そりゃ鬱陶しい。
「どうやって倒したんだろうね……?」
竜種の成体は魔力を遮断する鱗を持つ。
倒すには、魔法抜きの物理攻撃が基本になる。
ただし、鱗自体が非常に硬いため、鱗の無い腹部位しかまともにダメージが通らない。
ダメージを与えるためには、懐に潜り込んで攻撃するしかないらしい。
……バカだろ?
「延々と鱗に攻撃を続けて、割れたところへ鉄の槍を打ち込み、今この国の国宝として伝わる【雷神剣メサリア】で雷を落とし弱らせてっていうのを何か月も続けたそうね」
もっとバカだ。
「犠牲の数を考えると正気とは思えないけれど、どのみち倒すことが出来なければ当時のルゼルはもたなかったでしょうし、倒すことが出来たからこそ今の大森林同盟がある事を考えれば、正解だったんでしょうね」
「へー……」
貴族向けの歴史書には多大な犠牲を払って、とはあったけれど、倒し方までは書いていなかった。
割となんでもかんでも書いていたが、真似されるわけにはいかないし、流石にこれは書けなかったんだろう。
「王都より東のいくつかの領地には似たようなものがあるわ。流石に竜種じゃないでしょうけど、その土地の主を素材に結界を張っているはずよ」
「ほうほう」
そういえばゼルキスの館で立ち入り禁止にされていた場所があった。
あの領地は今の開拓最前線だし、多分あれがそうなんだと思う。
「もっとも、どこでもそれが出来るわけでは無いから、他所で討伐された魔王種の素材を流用している領地も多いわね。ただ、どうしても効果は薄れるそうで、本来なら滅多に近寄ることは無いそうなのに領都の近くにも魔物が巣を作るとは聞くわ。私達なら戦力も揃っているし、あのお嬢様ならそれを狙うんじゃないかしら?」
「ふむふむ……ん?」
「魔王種は長く生きていればいる程強くなるし、ジグハルトが張り切っていたわよ?」
確かに、ジグハルトにフィオーラ、ルバン達にアレクやエレナもだし、一応俺もいる。
うん。
強い。
……え?
戦うの?
「どうしたの?」
愕然としている俺に気づいたのか、様子を伺うフィオーラ。
「うん。なんでもないよ」
ビビってるだけだ。
そうか……開拓って普通に木を切ったり地面を均したり、魔物倒したりが大変って考えていたけれど、こういう事もあるのか。
「よろしいでしょうか?」
解説をフィオーラが行っていたためすっかり空気だった案内役の人がやってきた。
「あら?もう時間?」
「はい。もう兵の交代の時間になります」
「そう。セラ、行きましょう」
「あ、うん」
まじかー……。
セラ・【隠れ家】【祈り】【ミラの祝福】・【浮き玉】【影の剣】【緋蜂の針】【妖精の瞳】・12枚
セリアーナ・【範囲識別】・【】・26枚
エレナ・【】・【緑の牙】・2枚
アレク・【】・【赤の盾】・4枚




