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作り上げるアリバイ

《登場人物》


徳永 真実 (35)  警視庁刑事部捜査第一課警部

高山 朋美 (30)     同 巡査部長


沢渡 幸次郎(34)  ライトノベル作家

沖田 稔  (34)  フリーライター





 冷たい風が強くなる1月の中頃。



 東京都の街から遠く離れた郊外に建つアパートの一室。そこの住人である沖田稔の部屋は、デスクのライトとPCモニターによって、薄暗い照明を演出している。

部屋の柱につけられた壁置き時計の針が静かに時間を告げた。

 その部屋の中に1人、沢渡幸次郎は、目前の光景に薄っすらと息を吐く。それが興奮によるものなのか焦燥にかられたものなのかは分からない。ただ、自分は人間を1人殺めただけなのに……。

 彼の目に写る物は、単純。デスク用の椅子に座り、机を枕の様にして、眠る髭面の男。だが、彼の首は机の左に向いており、両腕は下に向けて宙に沈んでいる。

 着けていた眼鏡は、歪み、床に落ちている。レンズにはわずかな赤い血。

 正面に置かれたPC用のモニターには血液が飛び散っている。


「……やれやれ」


 沢渡の左手に集まっていた力が緩み、掴んでいたトロフィーが床に落ちた。トロフィーの文字盤の一部が赤く染まろうとしている。

 そのまま彼は、右手に着けている腕時計で時間を見てみると、午後9時10分と、時計の長針と短針が示している。そのまま彼は急いで次の行動に移る。倒れている男の息がない事を確認した後で、ポケットに入れていたUSBを取り出して、PCに挿入して、男の書いた記事やデータをそのままUSBへと移動させていく。

 容量が多い為、データ移動までの時間が2分と表示が出ている。

 空いた時間を利用して、タンスの引き出しを開けて、ある程度綺麗に整理されてある衣服を、くしゃくしゃにしながら取り出して、床に叩きつける。

 そう。沢渡は、物盗りの犯行に見せかける為、部屋のありとあらゆる所を物色し、荒らしたのだ。

 ある程度、部屋を荒らし終えたところで、USBのデータ移動表示時間が0秒になったのを告げる。

 データや記事が表示されているページを閉じて、履歴を削除し、今度は、画面を、オンラインゲームのタイトルブラウザ画面に変えた。


《WORLD_WEST ワールド・ウエスト》


 彼のキャラクターのログインを完了させ、ゲーム内のロビーに姿を現せておく。これで被害者がゲームをしていたという事実を作り上げる。


「さてと、アリバイを作らなければ……」


 そう呟きながら、沢渡は自分が持って来ていたカバンの中から、薄型のノートPCを取り出した。

 ノートPCはスリープのままで持ち運んでいた為、電源を入れるとすぐ画面がお気に入りの背景で表示されている。

 無線LANのルーターデバイスが反応した。

 彼はそのままデスクの引き出しをあさって、一枚の紙きれを見つける。

 

《無線LAN、ログイン用パスキー》


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「これか」


ノートPCに表示されているコード入力に、パスキーを打ち込み、エンターキーを押す。その後はすぐ簡単にインターネットに接続ができた。

 彼は急いで、ネット接続したPCでオンランゲームをつないでログイン。

自分が使っているアバターを出現させて、ゲーム内のワールドで走り回り、セーブをする。

 それだけでは足りないと感じた彼は、その世界でのクエストを4,5分だけして、そのままの状態のまま画面を閉じ、鞄にしまい込んだ。


「これで良し。悪いな。沖田」


 そう彼は言ったが、沖田の返事はなく、ただ静かな空気が巡回して流れていく。

 沢渡は、死体だけを残して部屋を出ていく。出入り口のドアをゆっくり開けて、最後、自分がへまをしていないかを確認し、完璧であると感じてから外へと出て行く。

 古いドアの締まりが悪いせいか、少し耳障りな音を発しながらドアは閉まる。外の夜景がいつになく変に感じた。

 沢渡は着けていた白の手袋を外しながらかアパートの階段を降り、夜風を顔で感じた。

 


 冷たい。



 それから移動に30分かけて、彼は自宅に戻り、自室へ入る。部屋内は真っ暗。彼は、そのまま壁に備わった点灯スイッチを押して部屋の照明をつけた。

 鞄をオフィスチェアに置き、ジッパーを開いて、ノートPCを取り出す。

それを今度は、置いていた机のスペースに置き戻した。鞄を床に置いて、自分の体をチェアに預ける。ゆったりとした背もたれが自分の疲れた体をある程度、休息へと導いていった。そのまま彼は画面を開き、スリープモードを解除。


「ふうー。これで、もう大丈夫だな……はははっ」


 不敵な笑みを浮かべながら、彼はタッチパッドを用いて、自分の左人差し指をマウス代わりにしながらPCを操作していった。


第1話です。 話は続きます。

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