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聖人君子の僕を裏切った幼馴染へ。家族からの復讐は極上らしいけど、君への罰は「無関心」という名の永遠の地獄です  作者: ledled


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6/8

転落者の絶叫~俺の人生を壊したのは誰だ~

俺の名前は久遠寺雅臣。都内でも名門とされる大学で教鞭をとる、文学部教授だ。

我ながら、俺は恵まれた人生を歩んできたと思う。持って生まれた容姿と頭脳、そして努力によって手に入れた社会的地位。それらを巧みに利用すれば、世の中の女など、面白いように手に入った。特に、まだ社会を知らない純粋な女子学生は、俺にとって最高の獲物だった。少しばかり知的な言葉を囁き、「君は特別だ」と甘い言葉で耳元をくすぐれば、彼女たちは簡単に目を輝かせ、俺という「大人」の男に身も心も委ねてくる。


その年のゼミにも、格好の獲物がいた。白鐘栞。明るく素直で、少し世間知らずなところが庇護欲をそそる、典型的なお嬢様タイプ。話を聞けば、生まれた時から隣に住んでいるという幼馴染の恋人がいるらしい。それがまた、俺の征服欲を刺激した。他人の所有物を奪い取ることほど、スリリングなゲームはない。


俺は時間をかけて、ゆっくりと彼女に近づいた。二人きりになる機会を作り、彼女のレポートを過剰に褒め、他の学生とは違う「特別な存在」だと認識させる。


「奏太くんは、とても優しい人なんです。でも、少し子供っぽいところがあって……」


彼女が恋人の愚痴をこぼした時、俺は心の中でほくそ笑んだ。奏太、だったか。会ったこともない青二才の顔が目に浮かぶ。若さだけの男に、俺のような経験と知性を持つ大人の魅力が分かるはずもない。


「それは君が、精神的に成熟している証拠だよ。君のような聡明な女性には、もっと対等に語り合えるパートナーが必要なのかもしれないな」


俺は彼女の手に自分の手を重ね、心配そうな顔でそう言った。罪悪感と期待の間で揺れる彼女の瞳を見るのは、極上の娯楽だった。彼女は俺という名の劇薬に、ゆっくりと、しかし確実に侵されていった。


そして、計画通り、雨の日に彼女をホテルへと誘い出すことに成功した。俺の腕の中で、少し怯えたような、それでいて高揚した表情を浮かべる彼女を見て、俺は完全な勝利を確信した。また一つ、俺のコレクションに美しい蝶が加わった。この甘美な関係も、彼女が卒業するまでの期間限定の遊びだ。飽きたら捨てて、また新しい獲物を探せばいい。俺の人生は完璧で、揺るぎない。これからも、ずっとそうだと思っていた。


俺の完璧な人生に、最初の亀裂が入ったのは、白鐘栞をモノにしてから一週間ほど経った頃だった。

朝、スマホを開くと、大手新聞社のウェブニュース速報が目に飛び込んできた。


『名門・〇〇大学の久遠寺教授に悪質な論文盗用疑惑!』


「なっ……!?」


思わず声が出た。血の気が引くのが分かった。数年前に発表した論文だ。海外の、まだ無名だった研究者の未発表論文を「参考」にしたものだが、完璧に隠蔽したはずだった。なぜ今更、こんなピンポイントで。

その日を境に、俺の世界は急速に崩壊を始めた。

大学に行けば、昨日まで俺に媚びへつらっていた同僚たちが、腫れ物に触るように俺を避ける。学生たちは、好奇と侮蔑の入り混じった視線で、遠巻きに俺を指差してひそひそと噂話をしている。居心地の悪さは、日に日に増していった。


「これは、俺に嫉妬した誰かの仕業だ。そうだ、学内で俺の出世を妬む奴はいくらでもいる」


そう自分に言い聞かせ、平静を装おうとした。だが、事態は俺の想像を遥かに超える速度で悪化していく。

大学から届いたのは、懲戒委員会の召喚状。そして、追い打ちをかけるように、国税局の査察官たちが俺のマンションになだれ込んできた。


「久遠寺さん、こちらの海外口座への送金についてご説明願えますか」


査察官が突きつけてきた資料を見て、俺は言葉を失った。親族名義でさえ巧妙に偽装し、完璧に隠し通してきたはずの裏金だ。なぜ、彼らがそれを知っている?まるで、俺のPCのデータをすべて覗き見たかのような的確さだった。


パニックに陥る俺の元へ、さらに地獄からの招待状が次々と届き始めた。

内容証明郵便。差出人は、俺が過去に遊び、そして捨てた教え子たちの名前だった。それも、一人や二人ではない。示談で済ませたはずの女、泣き寝入りしたはずの女、全員が示し合わせたかのように、同じタイミングで慰謝料請求の訴訟を起こしてきたのだ。


「馬鹿な……!ありえない!」


ネットを開けば、さらなる地獄が待っていた。匿名掲示板やSNSに、俺のプライベートがこれでもかと暴露されていたのだ。女たちとの生々しいメッセージのやり取り、学内でのパワハラ発言を録音した音声データ、さらには俺自身も撮影した覚えのない、隠し撮りされた写真まで。炎上は凄まじく、俺の名前は「ゲス教授」として日本中に知れ渡った。ハッキングだ。誰かが俺のデジタルデータをすべて盗み出し、それを武器に俺を社会的に抹殺しようとしている。


「誰だ……誰が、一体何のために……!」


恐怖で全身が震えた。これは単なる不運や嫉妬ではない。もっと巨大で、冷徹で、計画的な悪意だ。俺のすべてを知り尽くした「見えない敵」が、俺の人生を徹底的に破壊しようとしている。


そこまで考えて、俺は一つの可能性に行き着いた。

すべての異変は、いつから始まった?

――白鐘栞と関係を持ってからだ。

そうだ、あの女だ。純粋な顔をして俺に近づき、俺の情報をどこかに流したに違いない。あの幼馴染の恋人というのも嘘で、本当は俺を陥れるために仕組まれた罠だったのだ。


「あの売女め……!」


怒りと憎しみが、恐怖を上回った。俺は震える手でスマホを掴み、白鐘栞に電話をかけた。もう、プライドも何もなかった。誰かのせいにしなければ、俺の精神は崩壊寸前だった。


「お前のせいだ、白鐘さん!君と付き合ってから、何もかもうまくいかなくなった!君が誰かに話したんだろう!俺の人生をめちゃくちゃにしやがって!」


電話口で、俺は獣のように吠えた。しかし、電話の向こうから聞こえてきた彼女の声は、ひどくか細く、虚ろだった。


『……くおんじ、きょうじゅ……?』


まるで、俺が誰だか分からないかのような反応。その覇気のない声が、俺の神経をさらに逆撫でした。俺がどんなに罵倒しても、彼女からは何の反応も返ってこない。ただ、時折、意味のない相槌が聞こえるだけ。まるで、壊れたラジオみたいだった。

俺は一方的に電話を切りつけ、壁にスマホを叩きつけた。


それから数週間後、俺はすべてを失った。

大学は懲戒免職。社会的信用は地に落ち、どの大学も俺を雇ってはくれなくなった。訴訟の対応で貯金のほとんどは消え、残った財産も追徴課税で差し押さえられた。住んでいた高級マンションも追い出され、今は薄汚い安アパートの一室で、ただ天井を眺める毎日だ。


今でも、分からない。

俺をここまで追い詰めたのは、一体誰だったのか。

白鐘栞か?いや、あんな小娘一人に、ここまで完璧な破滅工作ができるはずがない。彼女の背後に、誰かいるのか?あの冴えない幼馴染か?まさか。

だとしたら、一体誰が?なぜ?


答えの出ない問いを繰り返すたび、頭がおかしくなりそうだ。俺はただ、見えない敵の巨大な手のひらの上で踊らされ、弄ばれ、そして潰されただけだった。

窓の外から聞こえる学生たちの楽しげな笑い声が、やけに耳障りだった。俺も、少し前までは、あの光の中にいたはずなのに。

「うわああああああ!」

俺は意味もなく叫び、自分の頭を壁に何度も打ち付けた。痛みだけが、今の俺が生きていることを証明する、唯一の感覚だった。

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