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【書籍化】野生の聖女は料理がしたい!  作者: 枝豆ずんだ
第五章 冬の踊り子編
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グリフィス・ザークベルム



嘆き、絶望に打ちのめされたのは一瞬だった。


次期ザークベルム家当主、次代の領主であるグリフィス・ザークベルムはすぐさま館内を大股で進み、有事には街の有力者、騎士団長、兵団長等、立場ある者が集まることになっている広間へ急いだ。


「若様、領主様は」

「本日の晩餐、僕は連れの子供の相手をしていた。父がすぐさまここへ来ない、ということは、現状すぐに来れない、ということだろう」


常時屋敷内にいる騎士達は既に広間へ集まっている。駆け寄ってきた騎士の問いに答えれば、一瞬がっかりしたような、しかし、この場はそう選り好みはできないと思考を切り替えた色が浮かぶ。


その失望の意味をグリフィスはわかっていた。彼らは現れたのが領主であることを望んだのだ。


これが今の己の評価である。


以前の己なら、この場でこの若い、しかし自分よりは年上の騎士を叱責しただろうが、今はまるで気にならなかった。


「外の様子を見に行った者は?」

「っは。我らの班は三人一組ですので、二人が外へ偵察と、可能であれば街の住民の救助、または支援をと向かっております。私はここで指示を受け取り、二人に合流し領主様の指示を伝えるつもりでありました」


屋敷に在中する騎士は20名。そのうち4班が3人構成、1班が5人構成、そして常に単独で行動する騎士が二人。一人は騎士団長への伝令役であり、この場に既に来ていた。


「連絡手段の魔術式はあるな? 可能であるのなら今すぐ呼び戻せ、あれはただの雪ではない」


騎士達は、突然踊り子たちが現れて大雪を降らした、その程度の認識らしかった。なので雪に覆われた街でも、兵士たちと協力して住民の安全を確認し、突然の雪のため、屋外に出ていた者の安否確認などを行おうと、それはあらかじめ想定された災害時の対処方法である。


「我々を殺すつもりで下ろされた雪だ。窓の外を見ろ」

「……雪が積もっている、ようですが」

「音はするか?」


わからぬ騎士に、グリフィスは続けて問いかけた。


あ、と小さく、呻く声が騎士達から上がる。


外は静かすぎるのだ。音を吸い込んでいるのか、どうかわからないが、その大雪という光景に意識を取られ過ぎてすぐには気付かなかった。


夜が始まったばかりであるが、まだ通りや広場に人はいたはずだ。それが悲鳴も何も聞こえてこない。まるで、動ける者が外には存在しないかのような。


それが外だけではなく、この屋敷以外の全てである可能性を、グリフィスは考えないわけではなかった。だが、まだわからない。わかっていないのだから、己は、街の住人達が生存している、という前提で行動するべきなのだ。


「騎士の鎧には魔術式での防御が刻まれているし、外に出た彼らも自身の魔力で寒さに対抗することはできているだろうが、しかし、常時の装備程度では危険が多すぎる」


ザークベルム家は魔女に呪われた家系。

手を出せば、魔女の獲物を横取りしたと、氷の魔女に睨まれるぞ、そう周知することで、隣接した領地や、外国からの侵略を躱してきたが、しかし何か起きた時の為にと備えはしてある。


まずは魔力持ちの騎士達に万全の装備を整えさせ、と考えるグリフィスに、騎士達の非難の声が浴びせられた。


「それは……今すぐ助けを必要としている者を見捨てる、ということになりませんか」

「今も街の上空に踊り子たちが飛んでいるんだ! また次の大雪を落とされるかもしれないのに……自分達だけのうのうと館にいるなど……!」

「やはり魔女や不気味な踊り子など排除すべきだったのだ!!!」

「若君は臆病者だ!!」

「元凶を絶てば雪など恐れることはない!!!」


彼らはグリフィスを騎士の誓いも立てていない半人前、いや、それ以下だと考えているし、それは、これまでのグリフィスの態度からも当然のことだ。


それはわかっている。わかって、いる、のだが、グリフィスは苛々と感情が沸き上がり、ダン、と拳に魔力を込めて壁を殴る。


強い衝撃が屋敷を揺らした。だが、壁が崩れそうになるのを魔力で補強し、一瞬で何もなかったように見せる。


「今この場に領主である父が不在であれば、最も魔力が高いのはこの僕だ。空の踊り子たちの魔力量を、お前たちの誰か一人でも正確に測れるか? 父と僕、二人で不意を突けたとしても、言っておくが―――踊り子一人、斃せないぞ」


言いながら、グリフィスはこの言葉を事実と彼らが受け止めながらも、しかし、こちらへの反抗心が微塵も消えていないことを悟った。


グリフィスは、考え、そして選んだ。

今優先すべきことは、住民たちの身の安全の確保だ。それは間違いないだろう。

だが、そのためには騎士達の装備を、冬の踊り子たちの雪への対策をしたものに変えなければ、外に出てただ死ぬだけである。


騎士一人で十人、二十人と救えるのなら、騎士を一人でも多く死なせないための準備をすることがグリフィスの役目だ。


『この僕が、誰かに優しくなど……出来る訳がないだろう』

『あら、どうしてです? グリフィス様は、村娘の私に、親切にしようとしてくださるじゃないですか』

『しようとしても、できない』


脳裏に、マーサとの会話を思い出す。


人に、優しくするというのはどういう心で行えばできるのだろう。


マーサは息をするように当たり前に、他者に優しく正しい行いをする。その顔には穏やかな笑みが浮かんでいて、親切にすることで自分が幸福だと、それを嬉しいと全身から喜んでいるような、そんな様子だった。


だが、自分はわからない。


人に「良い目にあわせてやろう」「得をさせてやろう」と、そう、計算し振る舞うことはできる。だがその己の心には損得勘定があり、マーサのそれとは違うように思えた。


どうしたら、マーサに優しくできるのか、ずっと、ずっと、考えて、やはり、できなかった。


「……だが、僕は領主の息子だ」


ぐっと、グリフィスは腹に力をこめる。


マーサなら、いや、人に優しくできる者であったなら、今この場で騎士達を説得し、心から従ってもらえるように、出来ただろう。

だが、己にはできない。

これまでの自分が、あまりにひどかったのだ。いや、これまでの、ではない、自分という者がそもそも、酷いのだ。


優しくしたいが、どうすればいいかわからない。


だがグリフィスは領主の息子だ。

ザークベルム家の人間だ。


「どう、街を守ればいいかは、わかってる」


一度目を伏せ、そして騎士達を見渡す。


すべきことは、踊り子たちと戦うことではない。

住民たちの安全の確保だ。再度の邪魔をしてこないなら、人間種で対抗できる存在ではない精霊種など、相手にすべきではないのだ。


「僕はお前達から見れば不満しかない存在だろう。だが、それでも僕の魔力はお前達より強い。―――外へは僕が行く」


それが最善だとグリフィスは判じた。


あの雪、触れたものを瞬時に凍らせる効果を持つものであっても、魔力が高ければ防御もできるだろう。そして、去年マーサによって雪の踊り子たちの訪れる数が増えた件により、来年もマーサを呼ぶ以上何か対策を、と各家の暖炉には範囲はそれほど広くないけれど、雪に対して絶対的に有効な炎の魔術式を刻んである。


予定した発動まではもっとあると思っていたので、まだ魔力が繋がっていない家が多いが、ならば自分が直接魔力を流し込み発動させれば、伝説の聖女の結界程ではないにしても、今のこの状況から命を守ることくらいはできるはずなのだ。


それらを説明し、グリフィスは黙り込む騎士達に指示を出す。


「レギオン班とビズラ班、伝令二人は装備を整え、ロビン騎士団長の元へ。あの男なら、生きていれば必ずこちらへ向かっている筈だ」


父が最も信頼する騎士であるロビン卿。

今はこの場にいない騎士アゼルの育ての親でもある。


命じた騎士が頷き部屋から出ていくのを見届ける間も開けず、指示を続ける。


「フェルゴ班五人は、緊急時の脱出路を使い街を出て近隣の街や砦へ物資と増援の要請を。僕の指輪と短剣を持っていけ」


周囲には砦や街がある。そこの在中騎士や、兵士たち、そして今後必要になる食糧等の物資の確保は出来るだけ早くすべきだ。


残りの二班のうち一班にはこの館の防衛を任せた。


「父上にお会いできれば、父上の指示を最優先としろ。そして母上にお会いしたなら……」


そこで一度言葉を区切る。


……母が、自分に関心がないのはわかっている。己の言葉を聞いてくれるだろうか?


そんな不安がないわけではない。

だが、今はそんな弱気になっている場合ではない、と顔を上げる。


「母上には、踊り子たちによって一度破壊された結界の再構築を頼んでくれ」


どこもそうだろうが、領主の住む街の上空には強力な魔術式での結界が展開されている。先ほどの踊り子の出現では一瞬で、冗談のように何の効果もなく破られたが、いつまでも張らないまま他の外敵の侵入を招く事を恐れた。


嫡男とその実母の冷え切った関係を知っている騎士達は何か言いたそうな顔をしたが、さっさと行けと促した。


グリフィスは一度、マーサのいる部屋を、窓から眺めた。


戻ったその時には、これまでの事を彼女に謝ろう。

謝って、許して貰えないかもしれないが、それでも、謝って、謝って、そして、それでも、それでも、一度だけ、求婚しよう。


「スルト班は僕の供を」


そして最後の一班、館の在中騎士の中では上位の魔力量を持つ騎士に命じれば、スルトはグリフィスをじっと見つめ、そして、背筋を伸ばして敬礼をした。


「……若……いいえ、グリフィス様。このスルト、貴方様の成長を目の当たりにし、感動で胸が震えております」

「……そうか。今はそれどころではないので、さっさと準備をしてこい。外に出た二人と落ち合うぞ」


そう言えば、スルトは自分の剣の師だった。

師と言っても、何度か斬り合って、そのうちに自分はすぐに覚えてしまったから、スルトを呼ぶことはなくなったのだ。


在中騎士としている中では中年の、下級貴族の四男だというスルトは名誉を求めてロビン卿のいるこの地へ来たのだったか、と、今更、そんなことを懐かしく思った。




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頑張れバカ息子。回避せよ死亡フラグ。


健康診断ひっかかりました。コレステロール値が……そうか…、野菜を、食べねばなりませんね。

ブロッコリーを茹でてごま油とラー油という手抜きをしたのですが、これが中々。

下がれ私のコレステロール値。流れろ血液。

ソシャゲで4万溶かしてもジ○ルドでなかったけど5千円でス○ディ来ました。私は勝ち組。でも涙しか出ない。3周年で配られた大量の石はマナプリにしかならなかった。

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