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あぁそうだ呪われろ、呪われろ


小麦粉と水をこねて出来るもの。

その代表と言えばすいとんなのだが、他にうどんやら何やらと思い浮かぶものは多くある。

本当小麦粉万歳。人類万歳。小麦粉こそ人類の食文化に(以下略)


その中で私が今一番作りたいのは餃子の皮だ。

そう餃子。餃子、餃子といえば中華料理であるが、私が思いつく餃子は正しくは中華料理ではない。


日本人がご家庭で作り、チェーン店餃子の○将などで出される皮の薄く具がぎっしりと詰まったもっちりとした食感の焼いた餃子、あれは中国の水餃子・焼き餃子とは違う「日式餃子」と呼ばれるもので、なんと本場中国では日本料理扱いされ寿司屋でも出てくる。さすがは他人の国の料理を自分とこにアレンジすることに定評のあるジャパン。おいおい、餃子すらやっちまったか。大丈夫か?寿司が中国料理とかになったらブチ切れるだろ?まぁいいか。日本万歳。


丸く伸ばした薄い生地に包む私の愛する餃子の具はシンプルだ。

刻んだショウガ・ニンニク・キャベツ・ひき肉、塩コショウはもちろんだが、それに忘れてはならない鶏ガラの元。(市販)え?料理人なのに市販の鶏ガラ?もちろんだとも。全て手作りでした方がうまいなど、驕るつもりはない。私などよりはるかに頭がよく経験がある方々が試行錯誤し様々な研究を重ね開発された既製品の数々をなぜ使わないのか。


まぁそれはいいとして。


どうもこんばんはからこんにちは、ごきげんよう、料理人目指して獅子奮闘中・野生の転生者エルザです。


「……まぁ、そうだな…いつか、お前には話さなきゃならねぇと思ってたんだが」


息子イルクに服を掴まれ、クロザさんは困ったように頬をかいた。そして「ここじゃなんだ」と歩き出す。私も早くこの場所から離れたかったからそれに従い、村の外れまで付いて行った。森とは方向が違う。このままスレイマンのところまで連れて行って欲しかったのだが…。


「……父ちゃんは、村の入り口で番をしてることがおおいから村の中にはあんまりいなかった。でもおれ、そんな父ちゃんの手伝いをしようって、行ってもとうちゃんがいないことが何度かあった」


イルクは村の子供たちに馴染めていない。だから森の入り口をじぃと眺めていたそうだが、時折、そこから離れて村の入り口にいる父のもとへ向かった。だがいなくて、そして村中を探してもいなかった。


村人たちの生活範囲は狭い。そこで、見失うことなどまずない。それなのにイルクは父を見つけられず、けれど幼いながらになぜか「他の大人に気付かれてはいけない」と思った。


だから森を見張っていた。父がいるかもしれないと思った。だがイルクが知る限り、父が森から帰ってきたことはない。だから、父ちゃんは村の決まりを破ってなどいないんだと安心していた。


それなのに。なぜ、とイルクはクロザさんを見上げる。


「まぁ、あぁ。そうだ。お前が生まれてから、母ちゃんがいなくなっただろ?それでな、まぁ、男手だけで育てるのは限界があったし、余所者だからうまく村になじめなくてな。それで、こっそり森で小さい動物や珍しい植物をとってな。隣町の連中が来た時に買い取って貰ってたんだ。お前には、たくさん食ってでっかくなってもらいたかったからなぁ」


悪い事とは知っていたが、それでも息子の為だと父親の顔でいう。

イルクは黙った。そういわれては、もう彼に言えることは何もないだろう。


「どうして嘘をつくんです?」


だが私は反射的に問うた。


それには二通りの意味があり、クロザさんも気付いたようだ。「うん?」と幼い子供に大人が優しく言葉の続きを待つような顔で、その言葉の意味を私に決めさせようとする。多分それで、私の今後が決まるような気がするので、私はクロザさんにもう一度、私をどうする気なのか確認する意味も込め聞く。


「どうしてですか?」

「……そりゃ、村の皆には言わない方が良いだろ?」


いえ、そっちじゃないと言ってしまえば私はどうなるだろうか。


先程の話、あれは嘘だろう。

本当の部分もあるだろうが「イルクに食わせるためだけが目的」という、それはまず違う。


村の入り口の番をしていたクロザさんは村では異質な存在、それは間違いない。それは元傭兵だからかとか、そういう先入観をまず捨てて私は考えてみた。


なぜ森に入るのか。


イルクを育てるためというが、あの平和・温厚な村人がクロザさんたちに手を貸さないとは思えなかった。マーサさんの話によれば、ラグの木のスープが食べれなかった幼いマーサさんに自分たちの食べる分であっても親切に提供してくれたような彼らが、だ。


であれば、なぜ森に?

森に行かなければならない理由があった。

そしてそれは、まだ果たされていない?


「なにを探してたんです?」

「………黙ってついてきてくれるなら、怖い目にはあわねぇで済むんだがな…」


さっきは逃がしてやっただろう?とクロザさんが「村の皆に嘘をついてる」という方を示したことを案に告げる。


まぁ、あのまま私がちょっと賢いけど肝心なところには気付いていない子供のフリをしていれば良いのはなんとなくわかっていたが。

だがそれは私が「何も知らずに利用される」というだけであって、結果は大して変わらないだろう。


「怖い目って、クロザさんがですよね?私に何かしたら、スレイマンがものすごく怒りますよ。えぇ、きっと、怒ります」

「ははっ、お嬢ちゃんはあの旦那が自分を愛しているっていう自信があるんだなぁ」


乱暴で尊大だが、スレイマンは私に甘い。

そんなことくらいちゃんとわかっている。


今の私の記憶には母さんやスレイマンとの思い出しかないが、だが私は心はアラサーだ。前世で親からしっかり愛され、他人からも良くして貰ってきた。大事にされる、守ろうとしてくれているその心がどういうものか、ちゃんと私は知っている。


「あたりまえじゃないですか」

「理由は?」

「は?」

「いや、理由はなんだって聞いてるんだ。お嬢ちゃんとあの旦那、まぁ、実の親子じゃねぇだろ。あんな癇癪もちっぽい、しかも神性魔法まで使える様な…ありゃお貴族様かなんかだろう旦那が、なんでお嬢ちゃんみたいな子供を大事にしてるって、そう信じられるんだ?」


真剣な顔だった。三歳の子供に問う声音ではない。

私は一瞬びくりと震えそうになる。怒鳴られたり暴力的な言葉には慣れているが、こう、自分より圧倒的に生物として身体能力の高い男性というものに威圧されると、どうにも体が震える。


「だって、私はスレイマンがいた王国のプリンセスなんです。なのでスレイマンが私を大事にするのは当然ですよ」


挑発するつもりはなかった。ただ、自分の気持ちを強く持ちたかった。だから私は挑むように自分よりも何倍も大きな体のクロザさんを見上げ、殴られてもいいと思いながら続けた。


「―――なんて言えば「理由があるのが愛」だって納得できるんでしょう?」


私の意識があるのはそこまでだった。





====





「ま、魔術師のダンナ…そ、そろそろ、それくらいに」

「なんだか俺、気の毒になってきちまったよぅ」

「いくら襲ってきたっていっても、なぁ…?」


口々に言う村の若者たちを一瞥し、スレイマンは中位魔法を叩きこみ続けるため上げていた腕を下す。


ドゥゼの村。

聖なる森から最も近く、300年前に北の地にて魔の王を呼び戻そうと夜の国の公爵が真っ先に侵した小国エルナに位置する人間種が住む小さな村。

付近の森には森の賢者ハバリトンなどの魔獣や、力のない草食の獣も多く生息している。ラグの木という特殊な魔法樹が瘴気を吸い上げ神気を発しているため邪な存在は息を吸う度に胃を炎で焼かれるような、そんな痛みを与えられた。


魔王の魂を持つスレイマンとて例外ではないはずなのだが、聖なる森の洞窟で死にかけエルザとマーナガルムに助けられてから身体が妙に軽かったし、これほどの神気を吸ってもなんの異常もない。


「フン、これが森の主だと?この程度で笑わせる。皮を剥いでエルザの防寒着にするか」


森になんぞ異変があるかもしれないとスレイマンは村長に依頼されて森の中へ入った。一人で十分だったが「何か余計なことをしないように!!」というお目付け役的な意味合いで村の若い連中も付けられたことがスレイマンには不服だ。何かあっても守る気はないと言い捨てても人の良い村人は「はは、そんなことおっしゃるが、きっといざというときは助けてくださるんだろう」と信じて疑わないようだ。


そこでスレイマンは森の事情を把握するために、手っ取り早く森の主をシメることにした。


なんでそうなる。

余計なことじゃねぇかそれ、などという突っ込み役は残念なことにいなかった。


スレイマンが敵意をむき出しにして森の中を歩いていると「我の守る森に侵入者あり」とした態度で、それはまさに威風堂々とした、巨大な魔物が姿を現した。白銀の鱗に白い眼の、8つの頭を持った大蛇である。


人語を介する種ではなかったが、スレイマンを見て敵と認識し排除するために襲ってきた。


それをとりあえず適当な魔法で返り討ちにし、森の主の資格を奪い取れば森の中の状況がすぐに把握できる。


「……変事はない、か」


だが「森の主」として感知できる森の中でのこと、特に異常はないと判断できる。どこぞの土の中でモグラの赤ん坊が生まれたなどスレイマンにはどうでもいい。

ハバリトンの群れに関して意識を向けてみても何もない。


だが実際に、スレイマンは昼にあの魔獣の群れに襲われた。


「……おい、そこの愚民ども。この魔獣を村に運べ」

「へ?どうなさるんで?」

「もって帰ればあのバカ娘が何かに使うだろう」


木すら粉にしてパンを焼いた娘だ。

蛇に似た魔獣をどう料理できるのかスレイマンには考えつかないが、何かにはするだろう。さて、持ち帰ってやればどんな顔をするのか。どうせまた途方もないことをあっさり言って「スレイマン!おねがいします!」と当然のように振ってくるのだ。


戦争では対峙者の情報を全て把握し操ることすらできる精神魔法もあの娘にとっては「毒があるかないかわかります?」という程度のもの。


さぁ次はどんなことを俺に頼んでくるのか。

それが楽しみで仕方ないというのを、スレイマンは自覚はしていなかったが「俺しかできるものがいないのだろう?しかたないからやってやろう」という気ではいる。


森の主の資格を得たので、今後この村にあの娘が住むつもりならば落ち着くまで自分がいるのもいいだろう。そのうちに適当な魔獣に資格を押し付けるにしても、それは今でなくてもいいはずだ。


さて、と村へ戻ろうと杖を引きかけ、スレイマンは体を強張らせる。


「旦那?」

「……エルザ?」


あのバカ娘の意識が途切れたことをスレイマンは感じ取った。魔術は展開していない。だが。なんぞあったという予感が駆け抜ける。


村にいるはずだ。あの平穏そのものの村に変事など、森から魔獣でもやってこない限りないはずで、そしてその森は今スレイマンが掌握している。

では外からか?いや、その可能性、それもない。森の入り口はクロザが見張って…。


「……そうか、クロザ、お前か!」


はっとスレイマンは顔を上げる。


ハバリトンが真っ先に襲ったのは誰だ?

幼いエルザでも、少年のイルクでも、脚の不自由なスレイマンでもない。

見かけは屈強な、槍という武器を持ったクロザだった。


待ち構えていた、それは、やはり、それで正解だったのだ。

今朝スレイマンとエルザの二人では何もなかった。

だが昼は、クロザがいた。


ハバリトンたちは「またやつがきた」と、そう、待ち構えていたのだ。

理由などわからない。だが、だが、だけれども、スレイマンは確信した。


この村、この森、なぜこんな場所に村があるのか。なぜ、ここでなければならなかったのか。その理由をスレイマンは知っている。

先代聖女の息子であったスレイマン・イブリースは知っている。


「聖女の結界を穢す気か!クロザ!!!」







===






「皆、どうしたの?」


エルザとイルクが慌てて走って行ってしまったのを見送り、マーサは再びワカイアたちの群れの中に戻った。二人はまだまだ遊び盛りだから、きっと家の中でじっとしているのに飽きてしまったのだろう。


自分が何か、大事なことを話していたような気がするが…あまり覚えていない。


「なんだか変ね?うなったりして」


ワカイアたちだけの水飲み場はいつも静かで、ワカイアたちは思い思いに寛いでいるはずだった。それなのに、いつもはマーサが来れば嬉しそうに近づいてきてくれるはずの彼らが、唸っている。何か警戒するように。


こんなことは初めてだ。


マーサは不審に思い、祖父に知らせようかと思う。だが様子のおかしいワカイアたちを放って置いて?それは、ワカイアたちを家族のように愛しているマーサにはできないことだった。


「大丈夫、大丈夫よ?ねぇ、どうしたの?何か怖いことでもあるの?」


優しく声をかけ、一番近い一頭の体を撫でる。いつもならそれでマーサを見つめてくれる黒瞳が今はどこか…マーサがやってきた方向、村の方を睨み付けている。


「あぁ、マーサさん。やっぱりいましたよね?まぁ、いるよなぁ。すいませんね、ちょっと、そいつら追い払ってくれませんかね?」

「クロザさん?」


飄々とした態度で、槍を片手にやってきたのはクロザだった。その空いている方の腕には眠るエルザを抱き上げている。


「どうしたの?エルザちゃん……寝ているの?」

「えぇ、まぁ、ちょっとね。それで、退いてくれますよね?」


クロザの顔は穏やかだった。スッと一頭のワカイアが進み出てクロザの顔にチョン、と鼻をつけるとクロザは槍を捨て、変わらない顔で笑い「あぁ、まぁ、そうだよな。俺の感情なんてこうしてあっさり、お前らは消しちまうんだ」と、マーサには解らないことを言う。


「まぁね、でも、まぁ、今はそいつらを刺したい俺の感情がどうなろうといいんですよ。今はね。ただちょいと、この泉の底に用があるんだ」

「泉の底?」

「えぇ。調べててね。昔のツテもあれこれ使いましたよ。領主なんてやってる友人がいるのは運が良かった。森にないなら、そりゃここだわな。一番怪しいのも、まぁ、ここだったんですよね。300年前の聖女が貼った結界の一つ」

「なにを言っているの?」


クロザが歩み始めると、ワカイアたちがマーサを守るように前に出た。彼らははっきりと、クロザを「敵」と思っている、そういうものがマーサの目にもわかった。だが、一体何を話しているのだろう。


「クロザさん、ねぇ…エルザちゃんは…寝ているだけよね?」

「ははは、さすがはマーサさん。こんな時でも他人の心配か。そりゃぁ、そいつらが大事にするわけだ。俺の女房と違い、上手く操れるんだろうなぁ」


言ってクロザはエルザの体を槍で一突きにすると、そのまま泉の中に投げ落とした。


「エルザちゃん!!!!!」

「おっと、動かないでくださいよ。本当はあんたでもよかったんだが、あのお嬢ちゃんならついでにワカイアたちも殺せる。俺の殺意も敵意も、あいつらはすぐに消しちまうが、あの旦那はどうかな?あの旦那のような化け物を殺せるほど化け物じゃあないだろう?」


コロコロとクロザは笑った。おかしそうに、楽しそうに、愛しそうに笑い、マーサとワカイアたちに向かい合う。


「純粋無垢な聖なる子供の血を得て穢れろ。お前達が俺たちから感情を奪う為に横取りしていた聖女の神気はこれで消える。呪われろ血の眷族どもめ」








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私の中で「この村編はワカイアが食われるエンドになるのか!?無事食われないで逃げ切れるエンドになるのか」どっちなのかと話題です。今は両方用意されてます。がんばれアルパカ。

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