96話 嫌な予感は続く
「他に、捕まっている子はいるかわかるかな?」
「えっと……た、たぶん、いないと思います。だよね?」
「う、うん……僕達以外、見たことないから……」
「よし。なら、捕まっていたのは君達だけか。すぐに逃げるとしよう。ただ、少し待っててくれ」
子供達を牢の外に出して、一人一人、健康状態を確認する。
……うん。
多少の衰弱や怪我はあるものの、命に関わるものはない。
体力もそこそこ残っていて、自分で歩くことはできるだろう。
「ノド……アルティナ。この子達を連れて、外に一緒に避難してくれないか? 誰かがついていてあげないと」
「それはいいけど……今、ノドカに任せようとしなかった?」
ノドカは猪突猛進なところがあるため、やや不安になった……と言うことはできなかった。
「ノドカは、周囲の探索を続けてくれないか?」
「え? しかし……」
「子供達の話を信じないわけじゃないが、しかし、誰でも見落としはあるものだ。他にも捕まっている人がいるかもしれない。それは、絶対に見落としてはいけないことだ。念には念を入れた方がいい」
「了解であります!」
「師匠はどうするの?」
「俺は、プレシアさんの様子を見に行くよ。彼女のことだから、手助けはいらないと思うが……」
どうにもこうにも、嫌な予感がした。
――――――――――
巨大な魔法陣が構築された。
そこから姿を見せたのは、鋼鉄の体を持つゴーレムだ。
通常、ゴーレムは使い捨ての兵器という認識だ。
その体は石で作られていることが多く、無用な細工を施すこともない。
ただ、ゴゴールが呼び出したゴーレムは違う。
その体は鋼鉄で作られていた。
さらに、各部に魔力を帯びた宝石がセットされていた。
「ふむ?」
プレシアは小首を傾げた。
初めて見るタイプのゴーレムだ。
おそらく、宝石をセットすることで特殊な力を得ているのだろうが……
見ただけでは、どのようなものか、さすがに判別することは難しい。
「試してみるかのう……インフェルノ・バースト」
紅蓮の業火が吠えた。
岩も溶かす極大の炎がゴーレムを飲み込む。
抗うことは不可能。
逃げることも無理。
プレシアの魔法の前に屈するしかない……はずなのに。
「……ほぅ」
炎が晴れた後、無傷のゴーレムが姿を見せた。
「ふっ……はは、はははは! どうだ、見たか!? これが、儂の最高傑作だ! これが儂の力なのだよ!」
「魔法耐性のあるゴーレム……いや。魔力そのものを無効化する処理が施されているのか」
「その通りだ。一目で見抜くとは、団長の肩書は伊達ではないな」
「このようなおもちゃで、妾をどうにかできるとでも?」
「できる、できるさ! そのために儂は、今日まで研究を続けてきたのだからなぁ!」
その怨嗟の声を合図に、ゴーレムが動いた。
「なっ!?」
巨体に似合わない速度で、ゴーレムは一気にプレシアの懐に潜り込む。
そのまま岩を砕くほどの、痛烈な一撃を繰り出した。
「ちっ……エンハンス・シールド」
舌打ちしつつ、プレシアは魔法の盾を作り出した。
それでゴーレムの一撃を受け止めるのだけど……
しかし、衝撃など、全てを防ぐことは叶わない。
思い切り吹き飛ばされてしまい、地面を転がる。
「いいぞ! そのままだ、そのまま殺してしまえ!!!」
泡を吐くような勢いで叫ぶゴゴール。
その命令に従い、ゴーレムは跳躍した。
この場にゴーレムに詳しい者がいたら、驚きのあまり失神していたかもしれない。
ゴーレムはとても強い力を持つ。
しかし、力を出すために体を大きくする必要があり、必然的に機動性が殺されてしまう。
それが、ゴーレムの当たり前であり……
風のように動くことも、高く跳躍することも不可能だ。
そのようなゴーレムは、誰も開発したことがない。
しかし、ゴゴールのゴーレムは違う。
魔法に対する高い耐性を持つだけではなくて、単純に速い。
軽やかに動いて、それでいて、力強い一撃を叩き込んでくる。
魔法使いであるプレシアが戦うには、あまりにも相性が悪い。
ただ……
「面白いな」
プレシアは何事もなかったかのように立ち上がる。
その顔には笑みが浮かんでいた。
「興味のあるゴーレムだ。おおかた、外法で作られているのだろうが、それでも、その構造を解析したいな。徹底的に研究してみたいな。ここで捕獲しておきたいくらいだ」
「はっ、なにを強がりを……今更、儂を認めたとしても、お前のことは許さぬ! 決して許さぬぞ!?」
「やれやれ……誰がいつ、お主を認めた?」
「なっ……」
「認めてなどおらぬ。力や技術に善悪はないため、そこを褒めただけだ。それを扱うお主は……最低最悪じゃよ」
「貴様ぁっ!」
ゴゴールの怒りに反応するかのように、ゴーレムが動いた。
拳を構えて、突撃。
他の武装はないのだろう。
ただ、それでも十分。
普通の人間でも魔法使いでも、大質量と巨体を持つゴーレムの攻撃は、一撃で死に至る。
その体そのものが凶器だ。
「アイシクル・ランス」
「ストーム・カッター」
「ジャベリン・レイン」
ゴーレムを迎撃するため、プレシアは連続で魔法を放つ。
一つ一つの魔法は、高ランクの魔物を一撃で屠るほどの威力を秘めていて……
しかも、そのような魔法を連射。
並の魔法使いにできることではない。
むしろ、プレシアにしかできないことだ。
……しかし、ゴーレムに届くことはない。
プレシアの攻撃、全てが弾かれてしまう。
そして、ガッ! と、ゴーレムの拳が再びプレシアを捉えた。




