62話 墓参り
家の裏手にある、四角い石を積んだところ。
そこがおじいちゃんのお墓だ。
本当は、もっと豪華なお墓を作りたかったんだけど……
そういうのは性に合わないと生前に言われていたので、シンプルなものにした。
みんなで手分けして墓石を磨いて、周囲を掃除して、花を捧げる。
それから、両手を合わせて祈る。
……おじいちゃん、ただいま。
長く家を空けてしまって、ごめん。
でも、おじいちゃんのことだから、良い経験をしたな、って褒めてくれるかな?
そうそう。
それと、弟子ができました。
アルティナっていう、剣聖のすごい女の子。
俺にはもったいないけど、でも、師匠師匠って慕ってくれていて……
がんばろう、って思えてくるよ。
あと、兄妹弟子のノドカと出会ったよ。
他に弟子がいるなんてびっくりだ、教えてくれればいいのに。
おじいちゃんは、たまにいたずら好きなところがあるから、いつか驚かせようとしていたのかな?
すごく驚いた。
他に隠し事はないよね?
とまあ……
こんな感じで、俺はうまくやれているよ。
おじいちゃんが空から見守ってくれているおかげだね。
これからもよろしくお願いします。
俺もがんばるよ。
「……うん、よし」
おじいちゃんとの語らいを終えて、目を開けた。
両隣にいるアルティナとノドカも、ちょうど終えたらしく、同じく目を開ける。
「ねえねえ、師匠。師匠は、どんなことを報告したの?」
「んー……俺は俺で元気にやっているよ、っていう感じかな。アルティナは?」
「あたしは……内緒♪」
「なんだ、それ」
「拙者は、トマス殿に感謝の想いを捧げました! トマス殿がいなければ、拙者は、剣の道に進むことはなかった……人生の恩人ですな!」
「うん。おじいちゃんも、きっと喜んでいると思うよ」
弟子がこれだけ慕ってくれているのだ。
きっと喜んでいるに違いない。
「ところで」
墓参りを終えた後、ノドカは、興味津々といった目をこちらに向けてきた。
「ガイ殿は、直々にトマス殿に剣を教えていただいたのでありますね?」
「ああ、そうだよ」
「ぜひっ、拙者と一手、手合わせ願えませぬか!?」
「えっ」
「さきほどのような不意打ちではなくて、拙者、真正面からガイ殿と戦ってみたいのです! どうか、どうか!」
「えっと……いいよ」
「ありがとうございますっ!!!」
ちょうど、俺もノドカの剣に興味を持っていたところだ。
おじいちゃんの剣を受け継いでいるものの……
しかし、色々と異なる部分が多い。
独自に進化を遂げてきたのだろう。
一人の剣士として、彼女と手合わせしたみたいというのは同じ気持ちだ。
「アルティナはどうする?」
「あたしは近くで観戦させてもらうわ」
「わかった。それじゃあ……」
俺は腰の剣を抜いた。
「さっそく始めようか」
「はい!」
ノドカも剣を抜いて、構える。
「ちなみに……それ、不思議な剣だな?」
「刀と呼ばれているものです」
「カタナ……聞いたことがあるな。東の国で使われている、主流な剣だとか。そうか、ノドカは東の国の出身なのか」
おじいちゃん、本当に色々なところに足を伸ばしていたんだな。
「では……いざ尋常に、勝負!」
ノドカの気配が変わる。
さきほどまでは、夏に咲く向日葵のように元気な姿を見せていたのだけど……
今は、抜き身の刃のように鋭く、強い闘気をまとっていた。
これが彼女の本気なのだろう。
素晴らしい力を持つ。
決して侮ることはできないな。
俺も集中して、意識を戦闘時のものに切り替える。
「……」
「……」
睨み合うこと少し。
「チェアアアアアアァッ!!!」
先にノドカが動いた。
獣のように吠えつつ、突きを繰り出してくる。
速い。
一瞬で刃が目の前に迫っていた。
転移したかのような錯覚を受ける。
これほどの高速突きは今までに見たことがない。
下手をしたら、音を越えているのではないか?
……などなど。
そんなことを考える余裕はあった。
体を半身にして、ノドカの突きを避けた。
同時にわずかに前に出て、足を払う。
突きに全力を込めていたノドカは抵抗できず、呆気なく倒れてしまう。
その喉元に刃を突きつけた。
「まだやるか?」
「……いえ、降参です」
ノドカは刀を放して、両手を上げた。
そんな彼女に手を貸して、立ち上がらせてやる。
「まさか、拙者の必殺の一撃が、ああも簡単に避けられるとは……」
「師匠、よく避けられたわね……? あれ、あたしが同じことをされたら、絶対に避けるのは不可能よ。それほどまでに速く、とても精密な一撃だったもの。観戦してて、師匠が貫かれた、って思うほどだったし」
「いや、本当にすごいと思う。俺も貫かれたと思った。ただ……」
速度も狙いもすさまじい。
ただ……
「あまりにも精密すぎるから、逆に狙いが読みやすいな。体の動きと視線を追いかけることで、狙っている場所の予測ができる」
「言うのは簡単だけど、それ、実行できるのめっちゃ難しいと思うんだけど……攻撃を予測するとか、未来予測と同じじゃない」
「とんでもない方ですな……拙者の必殺の一撃も回避されるわけですな」
「そうね、あれは確かに必殺にふさわしい……ん? ちょっと待ちなさい。あんた、ただの手合わせなのに、必殺の一撃を放ったわけ?」
「はい! 拙者の全力を見せることが、相手に対する礼儀であり、剣士の務めでありますから!」
「アホかっ!」
「あいたー!?」
アルティナがノドカをわりと本気で叩いていた。
いや、まあ……
すまない、正直、擁護できない。
「そんな危ないことしてるんじゃないわよ!? それは手合わせじゃなくて、殺し合いっていうのよ!? あんた、アホ!? アホなのね!?」
「す、すみませぬーーー!!!? 拙者、剣のことになると、ついつい我を忘れがちで……てへっ」
「笑ってごまかそうとするなぁああああああーーーーー!!!」
アルティナの魂の叫びが響き渡るのだった。




