206話 まずは対話を
「……へぇ」
ノアは楽しそうな顔をして。
同時に、目を細く鋭くする。
それは獣のよう。
大好物の獲物を目の前にして、どのようにして喰らってやろうか考えているかのようだ。
殺気が放たれる。
ピリピリと空気が震える。
このまますぐ切り合いに突入しそうなのだけど……
「……ただ」
俺は、一度剣を鞘に戻した。
ノアが怪訝そうな表情に。
「どうしたんだい? 戦いに来たのでは?」
「そのつもりではあるが、その前に一度、きちんと話をしたくて」
「話?」
「話を聞いたり状況を推察するに、キミは戦いを求めているのだろう?」
「その通りだよ。僕は強者との戦いを望む」
ノアは嬉しそうに語る。
まるで子供のような笑顔だ。
無邪気で純粋で。
……そして、悪意も表に出ている。
「僕は剣が好きでね」
ノアは剣を鞘から抜いた。
こちらに向けるのではなくて、水平に構えて刃を見る。
「とても綺麗な武器だと思わないかい?」
「……」
「シンプルだけど、しかし、習熟は難しい。多種多様な戦い方をすることができて、それに合わせて、様々なタイプの剣も出回っているそうじゃないか。僕は、そんな剣に魅了されたんだよ」
なるほど。
ノアが剣を使うのは、それなりの理由があるようだ。
以前、対峙した魔族も剣を使っていたが……
あちらは純粋な武器として使っていたが、ノアは、武器としてだけではなくて愛着も抱いているらしい。
「僕はもっともっともっと剣を使いたい。戦い、命を斬りたい……故に戦う。どうだい? とてもシンプルな理由だろう?」
「……」
「あれ? 僕が戦う理由を求めているようだから語ったのだけど、違ったかい?」
「いや……大丈夫だ。合っている」
ノアの戦う理由。
それを理解することができれば、もしかしたら和解も……なんてことを考えたのだけど、無駄だったらしい。
同時に、ソーンさんやアルティナ達がノアを嫌う理由がわかった。
こいつは剣に愛着を持っている。
しかし、それはとても歪んだもの。
命を斬りたい、血を見たい。
それは狂愛に近い。
剣士としてあるまじき想いだ。
剣は武器である。
だからこそ、使い手たる者はそれを凶器にしてはならない。
正しい行いをするための『善なる力』にするべきだ。
少なくとも、おじいちゃんならばそう言うだろう。
ただ、ノアは違う。
己の欲望を隠すことなく、余すことなく剣に浸らせて。
それを、やはり欲望のままに振るう。
剣士と言うには、あまりにも道をハズレすぎている。
外道だ。
ソーンさんやアルティナ達が嫌って当然だ。
魔族は魔族……ということか。
とはいえ、その想いはともかく、剣の腕は確かだろう。
今も迂闊に動くことはできないほど、圧倒的なプレッシャーを感じる。
外道に堕ちているとはいえ。
決して油断することなく、むしろその力だけは認めて、敬意を持って戦うべきなのだろう。
「知りたいことは理解できた。ならば、後は戦おう」
改めて剣を抜いた。
「なんだ。やっぱり、そういうことなんだね。いいよ、とても嬉しい話だ。キミとは、ぜひ一度、戦ってみたかったんだ。キミの剣はどのようなものだろう? 僕は、それを見るのをとても楽しみにしているよ」
ノアは笑う。
笑う。
笑う。
笑う。
その笑顔は、やはり子供のように純粋で。
そして、悪意にあふれていた。




