205話 再会。あるいは対峙
「……」
今は使われていない、昔の戦争で建築された砦跡。
そこにノアの姿があった。
適当な瓦礫に腰かけて。
意外なことに静かに本を読んでいる。
「……」
時折、パラリとページをめくる音。
視線は文字を追いかけている。
微動だにしないものの、しっかりと本を読んでいるようだ。
「おや?」
さらに近づいたところで、ようやくこちらに気づいたらしい。
あるいは、最初から気づいていて、今、気づいたフリをしたか。
……どちらかというと前者のような気がした。
今、本当に気づいたような気がする。
魔族でありながら魔族らしくない。
どこか抜けているところもある。
それが、俺のノアに対する印象だ。
「やあ」
ノアは本を閉じて傍らに置くと、立ち上がり、気さくに挨拶をしてきた。
友達と偶然、出会ったような感じだ。
「意外な客人だね。いずれ再会するだろうと思っていたけど、まさかこんなに早いとは。これは予想外だったかな?」
「……俺としては、できれば再会したくなかったが」
好き好んで魔族に会いに行く趣味はない。
このままでは大きな被害が出てしまう。
故に、そうなる前にノアを止めに来た……俺の剣は守るためにあるから。
ただ、なぜ剣を選んだのか?
それについて、まだ確かな答えを見つけることはできていない。
そのような状態でノアに通じるかわからない。
とはいえ、これから起きるであろう悲劇をそのまま見過ごすことはできない。
今、できることをしよう。
「おや? そちらのキミは……うん。ちゃんと覚えているよ。キミとの戦いはとても楽しい。決着をつけられないことを、いつも心苦しく思っているよ」
ソーンさんを見て、ノアは親しげな笑みを浮かべた。
……強者には敬意を払うのだろうか?
だとしたら、魔族についてますますよくわからなくなってしまう。
おじいちゃんの家に置いてあった歴史書などでは、魔族は人間の天敵で、破壊と殺戮を好む存在してはならないものと書かれていたのだが。
「また戦いに? だとしたら嬉しいな。今度こそ決着をつけたいね」
「……貴様が勝つと?」
「まさか。キミを相手にそんな自惚れたことは言えないさ。まあ、負けるつもりで戦うつもりはないけどね」
「ふん」
ソーンさんは不機嫌そうに舌を鳴らした。
ソーンさんはノアのことを嫌っているようだけど、なぜなのだろう?
魔族で人斬りのようなことをしている。
厄介極まりない存在だけど、人格としては、そこまで酷いものではないと思うのだが。
「それで、今日はなにをしに来たんだい?」
「それは……」
「さっきから、そちらのお嬢さん方がものすごい目で睨みつけているのに関係しているのかな?」
言われて振り返る。
「「「……」」」
アルティナとノドカとユミナ。
三人が、今までに見たことのないような顔でノアを睨みつけていた。
「えっと……どうしたんだ?」
「……あたし、あいつ嫌い」
「拙者もでありますよ。うまく言葉にできませぬが、嫌悪感が湧いてきます」
「例えるなら、詐欺で女の子を騙す紐野郎、ってところかな」
どういう例えなんだ、それは……?
でも、そういう相手を前にしたくらいの嫌悪感を覚えている、ということか。
ソーンさんもそうだけど……
ノアは、人に嫌われるようなオーラでも発しているのだろうか?
「今日は……」
静かに腰の剣を抜いた。
切っ先をノアに向ける。
「キミに勝負を挑みに来た」




