204話 いざ出陣!
できる限りの準備をして。
俺、アルティナ、ノドカ、ユミナ。
そして、ソーンさんの五人はエストランテを発つ。
目的地は、ノアの待ち構える拠点。
目的は、国が動いて本格的な『戦争』になる前に、ノアを討伐して、これから起きるであろう大きな被害を防ぐこと。
言葉にするだけならば単純だ。
しかし、相手は魔族。
しかも剣に通じていて、俺よりも……ヘタをしたらソーンさんよりも強いだろう。
討伐できるか?
そもそも、今の俺はちゃんと戦うことができるのか?
剣を持つ意味。
持ち続ける意味。
剣士としての在り方、存在意義。
今更ながら、そのようなことに迷い、悩んで……
「……難しいな」
自分のことで手一杯。
そのような状態で魔族と戦うことができるのだろうか?
「師匠?」
アルティナが不思議そうにこちらを見た。
「なんだかぼーっとしているけど、どうかしたの?」
「そういえば、そうでありますね」
「いつものお兄ちゃんのかっこいい顔が、なんだか、今日はくすんでいるかな?」
ノドカとユミナも会話に参加する。
ソーンさんは気にしていない様子で、一人、先を進んでいく。
その背中を追いかけつつ、問いかけに応える。
「少し考え事を……な」
「師匠が悩み事なんて珍しいわね。どんなことを考えていたの?」
「それは……」
剣を手に取ることの意義に悩んでいる。
……さすがに、このようなことは話せないな。
情けないとか恥ずかしいとか、そういう気持ちはあるが……
一応、俺は彼女達の師匠だ。
師匠として導く者として、そんな不安を与えるような言葉は口にできない。
ましてや、今から魔族と戦うという時。
心をかき乱すようなことはできない。
「まあ、色々とな」
結局、適当な言葉でごまかすことにした。
やれやれ。
情けない師匠だ。
「……ま、師匠も普通の人だった、っていうことね」
「どういうことだ?」
「なにか悩みがあって、でも、それはあたし達に話せないことなんでしょう?」
「それは……」
「別に責めているわけじゃないの。人間、誰でも秘密にしておきたいことの一つや二つ、あるだろうし」
「拙者はありませぬぞ?」
「ノドカさん、純粋無垢だからね」
「話をややこしくしないで」
アルティナはノドカとユミナを一睨み。
こほんと咳払いをして気を取り直して、後を続ける。
「あたしの中の師匠って、完璧超人なのよね。なんでもできて、どんな敵も一刀両断、っていう感じで」
「買いかぶりすぎだろう」
「いいえ。そのイメージは今でも変わらないわ」
アルティナはにっこりと笑う。
「師匠が悩みを持っていたとしても、それは同じ。あたしの中で、師匠は師匠。世界で一番尊敬する人で、それから……」
「それから?」
「……ここから先は秘密」
アルティナは、なぜか顔を赤くしてしまう。
どうしたのだろう?
「と、とにかく。そういうわけだから、変なことで気にしないで。隠し事なんて誰にでもあるし。ノドカにもあるでしょ?」
「拙者でありますか? そうですな……先日、間違えてアルティナ殿のお気に入りのマグカップを割ってしまい隠したことしか……あ」
「……あんただったのね? あたしのひよこマグカップちゃん、見当たらないと思っていたら……」
「い、いいい、いえいえ!? これはあの……ユミナ殿!?」
「さ、お兄ちゃん。ソーンさんに置いていかれないように急ごう」
「見捨てられた!?」
「だって、私を巻き込もうとしないでほしいというか……」
私は関係ない。
そんな感じでユミナはそっぽを向いた。
がーん、とショックを受ける様子のノドカ。
その背後にアルティナが迫り……
「こらっ、ノドカ!」
「ひぃ!? 申しわけないのでありますよー!!!」
これから魔族と戦うとは思えないほど気楽だ。
楽観的……というよりは能天気?
ただ、これが正解なのかもしれないな。
下手に気負うよりは、適度に力を抜いていた方がいい。
心もリラックスさせた方がいい。
……俺も見習うべきか。
未だ、『剣』を持つ意味はわからない。
ただ、それは今後の……
これから先の人生の宿題にしよう。
すぐに解決しようとせず。
焦らず。
しっかりと、時間をかけて向き合っていこうと思う。
そうすれば、きっと……




