201話 来たるべき時に備えて
「……」
「「「……」」」
アルティナとノドカとユミナ。
三人と向き合い、訓練用の木剣を構える。
実戦を想定した稽古。
ただ、1対3という乱戦になりやすい状況。
万が一のことを考えて、真剣ではなくて木剣を使うことにした。
もっとも、木剣だとしても当たりどころが悪ければ骨折をする。
ヘタをしたら命に関わる怪我もありえる。
気を抜くことは許されず、実戦と同じように緊張感をもって挑まなければいけない。
「せぇいっ!」
最初に突撃してきたのはノドカだ。
姿勢を低くしつつ、鋭く、速い突きを放ってくる。
これは、ある程度予想済みだ。
ノドカの性格からして、一番最初に動くと考えていた。
回避はしないで、あえてノドカの剣と真正面から向き合う。
木剣を斜めに。
ノドカの突きを滑らせるようにして軌道を逸らす。
「はぁっ!」
「えいっ!」
続けて、アルティナとユミナが同時に斬りかかってきた。
いや。
同時というわけではなくて、微妙にタイミングをズラした時間差攻撃だ。
とてもいい動きだ。
そして、良い戦術だと思う。
ただ……
「甘い」
「ひゃ!?」
「きゃ!?」
二人の攻撃を回避。
その後、がなかったため、簡単に反撃することができた。
それぞれ足元を狙い、転ばせる。
「まだでござるよ!」
一人残ったノドカが突撃してくるのだけど……
それは悪手だ。
動きは速い。
剣の鋭さもある。
とはいえ、最初の攻撃とまったく同じだ。
故に簡単に見切ることができて……
「みぎゃん!?」
こうして、カウンターが綺麗に決まる。
「これで終わりだな」
「うぅ……」
倒れたノドカに木剣を突きつけると、悔しそうな声がこぼれた。
「あー、負けたー……!」
「お兄ちゃん、強すぎるんだけど……」
アルティナは木剣を手放して、大の字になって転がり。
ユミナは、恨めしそうな目を向けてくる。
「少し休憩にするか」
俺は苦笑しつつ、そう答えた。
――――――――――
ノアという魔族は人間と通じて、餌ともいうべき冒険者を誘い出していた。
話した印象からすると、純粋に戦うことを楽しんでいたようだ。
わざわざ一対一の状況を作り出していたのは、戦うことを純粋に楽しむため。
戦争ではなく戦闘がしたい。
ただ、俺達がノアと通じていた人間を特定して……
横槍を入れられることがなくなり、邪魔をされることもなくなり、これで国は軍を動かすことができるだろう。
しかし……
ノアという魔族は、それも予想していたはず。
それなのにあえてこの状況になることを放置したということは、軍が相手でも勝てるという自信があることに他ならない。
戦闘ではなくて戦争になったとしても、彼はそれを打ち破る自信があるのだろう。
過信ならばいいのだが……
ただ、軽くではあるが言葉を交わして。
放つオーラを感じて。
個人的な意見ではあるものの、ノアならば軍を打ち破るかもしれない、と感じた。
最善の行動を取ったはずが裏目に出てしまったかもしれない。
このままでは大きな被害が出るかもしれない。
なによりも、ノアと軍の争いが拡大して、このエステランテにも被害が出るかもしれない。
それだけはダメだ。
俺は家を追放された身。
色々とあってその問題は解決したものの、今更、グルヴェイグ家を継ぐつもりはない。
帰るところはないと思っていたが……
しかし、エストランテを故郷のように思えるようになっていた。
守りたいと、純粋にそう思う。
故に、ノアをなんとかしなければいけない。
大規模な衝突に発展する前に、俺達で打ち取ることができれば?
単純な答え。
しかし、とてつもなく難しい答えだろう。
ただ、やる前から諦めたくない。
できない理由を考えて足を止めたくない。
前に進む。
掴みたいものを掴むために。
そのための鍛錬だ。




