198話 予期せぬ遭遇
「なっ……!?」
扉の先は宝物庫になっていた。
金や銀。
様々な宝石で飾られた装飾品などが並んでいる。
魔道具らしきものも見えた。
たぶん、貴重なものだろうが、これはプレシアでないとわからないだろう。
そんな宝物庫の中央。
台座の上に笛が置かれていた。
色は黒。
それ以外、特に変わったところはなく、シンプルな作りの笛だ。
「……」
その笛を持つ男がいた。
いや……
男と呼んでいいのだろうか?
見た目。
体格は男なのだろう。
しかし、それ以外が……異常だ。
陽に焼けたような肌から生えている角。
それは頭部だけではなくて、肩や膝。
手の甲からも伸びていて、さながら身を守る鎧のよう。
瞳は血のような紅。
ただし、額に3つ目の瞳を持つ。
明らかに人間ではない。
異なる種族であり、そしてそれは……
「……魔族……」
この男が、武具店と通じていた魔族であり。
そして、ソーンさんの討伐対象である魔族なのだろう。
そう直感した。
魔族は、ちらりとこちらを一瞥した。
なんてことのない態度。
ただ、迂闊に動くことはできない。
空気は重く、緊張感が場を支配していた。
「……」
魔族は俺を一瞥した。
襲いかかってくるわけではなくて。
警戒するわけでもなくて。
「へぇ」
笑う。
楽しそうに。
嬉しそうに。
唇の端を持ち上げた。
「いいね」
……なんの話だ?
魔族がなにを考えているか、なにをしたいのかわからず、軽く混乱してしまう。
それでも警戒は最大限に。
いつでも動けるように。
いつでも剣を抜けるように構えつつ、最大限の注意を払う。
「あんた、強いね」
「……なに?」
「剣を使うのかい? やっぱり剣だよね。オーソドックスだけど、一番扱いやすい。そして、どこまでも極めることができて、上限がない」
「……すまない、なんの話だ?」
唐突な話についていけず、ついつい疑問をそのまま口にしてしまう。
「なにって……ふむ? なんの話だろう?」
「……」
「悪いね。あんたが剣を使っていて、それに強い。だから、こんな風に声をかけてみたくなったんだ」
「それは……どうも?」
「とりあえず……」
魔族は俺から視線を外した。
新しく視界に捉えたものは、やや大きいサイズの手鏡。
シンプルな作りで飾りはない。
ただ、妙な力を感じるというか……
普通のものではない、と魔法に詳しくない俺でもわかった。
あれは魔道具だ。
「これは、離れた相手を映し出すことができる便利な道具さ」
なぜか、魔族がわざわざ解説してくれる。
「これを使って、ここの人間と連絡を取り合っていたんだけど……」
魔族はぐぐっと手に力を込める。
それに耐えられるはずもなく、手鏡はパリーンと割れた。
「状況を見る限り、ここの人間はもう終わりだ。だから、繋がりを絶たせてもらうことにした、っていうわけさ」
「証拠隠滅か」
「そうなるかな。いや、そうでもないか? もう壊したけど、でも、これがそういう魔道具、っていう証拠は残るはずだ。それを使えば、人間は、糾弾することが可能なんだろう?」
「そう、だろうな」
「なら、好きにしてくれ。僕はただ、この道具に僕の連絡先が残ったままなのが嫌だったら壊しただけなんだよね。どうでもいい相手から連絡を求められたり、面倒極まりない」
……なんだろう。
こいつは、本当に魔族なのだろうか?
こうして話をしていると、気さくな若者のようにしか見えないのだが。
いや。
それは油断だな。
本当に魔族なのか、と疑ってしまうのだけど……
しかし、俺の体は、いつでも動けるように構えたまま。
無意識に警戒を続けていた。
つまり、そうしなければならない相手、ということだ。
「一つ、質問をいいだろうか?」
「オッケー。なんでもいいよ」
「君は、ここから少し離れたところで冒険者を待ち構えて、襲っているという魔族なのか?」
「ああ、そうだね。その認識で問題ない」
あっさりと認められてしまうのだった。
本当に、なにを考えている……?




