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196話 開き直った悪人ほど厄介なものはない

 狼に似た体躯。

 ただ、大きさは狼の倍以上。

 そしてなによりも異質なのは双頭であることだ。


 オルトロス。

 高ランクの魔物で、小型のケルベロスと呼ばれている……らしい。

 ぷちぷちベロス、という感じか?


 実際に見るのは初めてなので、断じることは難しい。


 いや、それよりも。

 あの男は魔物を飼い慣らしているのか……?

 オルトロスの敵意はこちらに向けられていて、自分達を縄で繋ぐ男には一切向けられていない。


 動物を飼いならすテイマーの存在は知っているが……

 魔物をテイムするなんて聞いたことがない。


 もしかして、魔族と通じたことでそのような技術を手に入れた?


「そいつを放て! 連中を殺せ!」

「し、しかし、店内ですよ? それに客もまだ……」

「私はアレを処分しなければならない! 時間稼ぎになるのなら、なんでもやれ!」

「……はっ」


 店主の無茶な命令。

 思うところはあるらしいが、逆らうことはできないらしく、男は魔物達をその場に留める縄を手放した。


「いけ!」

「「ガァッ!!!」」


 襲いかかるオルトロス。

 さらに、奥から武装した男達が現れた。

 彼らも用心棒なのだろう。


「ひっ……!?」


 オルトロスは主とその仲間以外、全てを敵と見なしているようだ。

 無差別な攻撃で、その牙を一般客に向けようとするが……


「やめろ!」


 俺は前に出て、オルトロスの攻撃をアイスコフィンで防いだ。

 さすが名剣。

 しっかりとオルトロスの攻撃を受け止めて、耐えてくれている。


 アルティナ達も抜剣して、用心棒達を相手にする。

 それは魔法騎士も同じ。


 俺はオルトロスをその場に留めて相手をしつつ、プレシアに向かって叫ぶ。


「客の避難を!」

「しかし、こやつらの中にも関係者がいるやも……」

「だとしても、まずは安全が第一だ。それに問題ない。ここにいる人の顔は、全員、覚えた」


 後で客の情報を共有して、改めて個人の調査をすればいい。


 もしかしたら逃げられてしまう可能性はあるが……

 しかし、他の無関係な客が危険に巻き込まれるかもしれないということを考えると、この場は退避させるべきだ。

 情報は大事ではあるが、それ以上に命の方が大事だ。


「覚えた、とな……くくく、剣だけではなくその記憶力も規格外じゃな」

「プレシア!」

「うむ、任せておけ。連中の相手は妾がする。お前達は客の避難、護衛に徹しろ!」

「「「はっ!」」」


 無茶な作戦は撤回。

 まずは安全第一に進めることに。


 それなら最初から巻き込むような作戦を採用しなければいいのだが……

 一般客に関係者が紛れている可能性も捨てきれず、そのまま。

 これはミスだな。


 そのミスを最悪のものにしないために……


「はっ!」


 迫りくるオルトロスを両断した。

 オルトロスは高い生命力を持つらしいが、さすがに体を縦に両断されては生きてはいられないらしく、そのまま倒れる。


「まずは、魔物の掃討だな」


 ミスをした。

 ならば、その分、働かなければならない。


「オルトロスを両断でありますか……」

「アルティナさん、あれできる?」

「無茶言わないでよ……あ、でも、聖剣の力を全開にすればあるいは……」

「どちらにしても、さすがはガイ師匠でありますな!」

「私達もがんばらないとだね」


 アルティナ達が奮起して、それぞれ剣を抜いて敵に立ち向かう。


 魔物を相手にして。

 店の関係者を相手にして。

 客の護衛、避難を手伝い。


 一人で十人分くらいの大活躍だ。

 それだけやる気を見せているのは、なぜだろう?

 俺の行動に影響されて……とかなのか?

 だとしたら、至らないところのある師ではあるが、嬉しく思う。

 同時に、誇らしくもあった。


「団長! こいつ、挙動不審で……それに、なにやら怪しげな帳簿を手にしています!」


 プレシアが連れてきた魔法騎士の一人が、客を拘束して言う。

 客は露骨に焦り、俺はなにも関係ない! とわめいていた。


 プレシアが不敵に笑う。


「やはり、客の中にも紛れておったか。そやつは連行しろ。後でしっかりと話を聞く」

「はっ」


 本当に、客の中に店の関係者……犯罪者が紛れ込んでいたのか。

 それを予想したプレシアは、さすがの一言に尽きる。


 とはいえ、普通の一般客もいるだろうから、やはり、このような強行作戦はあまりとるべきではないな。

 反省しつつ……

 さらなるミスを犯さないように、今は最善を尽くす。


 剣を振り、魔物を討伐して。

 峰打ちで店員を気絶させて、魔法騎士に捕縛を任せて。

 進撃を続ける。


「師匠!」

「ガイ師匠!」

「お兄ちゃん!」


 弟子達の活躍で、店の奥に続く道が開かれていた。

 ありがたい。


「油断しないで、気をつけるように!」


 そう言い残して、俺は店の奥に突入した。

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― 新着の感想 ―
なんだかんだ弟子達も成長してる様子ですね。騎士団も優秀な様子。さあ!お仕置きの時間だ!
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