194話 嫌いなもの
「……」
プレシアは、そっと目を閉じた。
その状態で片手を前に。
手の平を武具店の方に向ける。
「……」
言葉は発しない。
ピクリとも動かない。
妙な圧を感じた。
たぶん、魔力の流れを探知しているのだろう。
俺は剣士であるため、魔法に関することはわからないが……
それでも、プレシアがとても高等な技術を披露していることは理解できた。
見る者を圧倒するような感覚。
飲み込まれるような迫力。
こんなことは誰にでもできることではない。
魔法騎士団を束ねるプレシアだからこそ、できることなのだろう。
「ふむ」
ややあって、プレシアはそっと目を開いた。
……その表情は険しい。
「どうでした?」
「……あれは嫌いじゃな」
「嫌い?」
「うむ。妾が嫌うもの……というよりは、全ての人間が嫌い、恐れ、忌避するであろう」
……もしかして。
「魔族の気配がしたぞ」
「それは……」
人間の裏切り者を探していた冒険者。
彼が残した手帳に記された武具店。
そこで感じた魔族の気配。
……色々と繋がってきたな。
まだ全容はわからないが……
あの武具店が今回の事件に絡んでいることは間違いないだろう。
「では、突撃でござるな!」
「「「ちょっと待て」」」
笑顔で、しかも本気で突撃しようとするノドカを、他、全員が止めた。
なぜ止められたかわかっていない様子で、ノドカは小首を傾げる。
「武具店になにかある、とわかったのでありますから、突撃した方がてっとり早いのでは?」
「そうかもしれないが、さすがに情報が足りない」
「突撃してすぐに証拠発見、ってわけにはいかないのよ?」
「当然、抵抗されるだろうし、その間に証拠を隠されちゃったりしたら、私達の方が犯罪者だよね」
「そもそも、強制捜査の権利は持ち合わせておらぬじゃろう。やるなら許可をもらい、ここぞというタイミングを見極めてからじゃな」
「むぅ……むぅ?」
戸惑い顔のノドカ。
みんなであれこれと説明したのだけど、よくわかっていない様子。
最近、ノドカの突撃癖というか、無鉄砲が強化されてきたような気がするが……
これは俺の責任なのだろうか?
分不相応ではあるものの、剣の師を務めている身だ。
しっかりと指導しなければいけないな。
「っ!? な、なにやら今、拙者、この先とんでもない苦労をするような悪寒が……」
そういうところは察しがいいらしく、ノドカは震えていた。
「さて……それで、どうする?」
プレシアが静かに問いかけてきた。
少し考える。
「……今日は、このまま退こう」
「よいのか?」
「プレシアのおかげで、あの武具店に『なにか』があることは確定した」
普通に考えて、街中の店に魔族の気配なんて残るわけがない。
どこかで魔族と通じていて、魔族が足を運んだことがあるのだろう。
「下手なことをして、証拠を潰されたくはない」
武具店の罪を問うことも大事ではあるが……
できることなら、武具店と魔族の繋がりを利用したい。
たとえば、武具店を利用して魔族に嘘の情報を流す。
それを討伐に活かす……などなど。
「最大限、こちらがうまく立ち回れるようにしたい。そのためには……」
「確実な証拠と圧倒的な正当性。そして、迅速に制圧できる策じゃな」
「その通りです」
「であれば、その辺りは妾が全て用意してやろう」
「いいんですか?」
全部、頼り切りになってしまう。
ただでさえ無償で協力してもらったのに、その上、さらに負担をかけてしまうというのはさすがに……
「なに、気にするでない。先も言うたが、ガイには返しても返しきれぬほどの恩があるからのう」
「以前の件なら、別に気にしなくてもいいのですが」
「気にしないわけにはいかぬよ。ガイがいなければ、妾は死んでいたじゃろう。いわば命の恩人。なればこそ、全力で恩返しをしなければならぬ。今まではその機会がなかったが……ようやくその機会を得たのじゃ。やるべきことはやる」
「それと」と間を挟みつつ。
さらに、なぜか体を寄せてきながら、プレシアは続ける。
「お主のためなら、妾はなんでもするぞ?」
「「「あーーーっ!?」」」
なぜか、アルティナ達が騒いだ。
「くふふ♪ こうした無骨な仕事だけではなく、夜の務めもこなしてみせようぞ」
「夜の……?」
「「「ちょっと!?」」」
再び騒ぐアルティナ達。
よくわからないが……
とりあえず、プレシアにからかわれているであろうことはわかった。




