193話 広がる悪意の輪
「ガイ師匠」
「お兄ちゃん」
一度、ノドカとユミナと合流した。
公園で遠くから武具店を見張りつつ……
二人と情報交換をする。
「裏口を見張っていましたが、特になにもなかったのでありますよ」
「ちょっと近づいて確認してみたんだけど、やっぱりなにもなかったかな」
……そこそこ無茶をしていたみたいだ。
現時点で、武具店が魔族の事件に関わっているという証拠はない。
夜、勝手に敷地に侵入して、それがバレたら問題になってしまう。
ノドカもユミナも、妙なところで行動力があるから困る。
「あたし達の方は……」
アルティナが、こちらも大きな収穫がないことを話した。
違和感のないことが違和感ということも含めて、話をした。
「違和感のないことが違和感……ほへ?」
「ノドカさん、大丈夫?」
「む、むむむ……?」
ノドカがとても難しい顔に。
考えるのが苦手なようだ。
……今度、剣だけではなくて算術なども教えた方がいいだろうか?
「やたら静かで落ち着きすぎている、っていうところが逆に気になる、っていうことよ」
「なるほど! ……なるほど?」
「わかっていないわね、これ……」
「二人の言うことはわかるけど、でも、その先、どうやって確認すればいいのかな?」
ユミナの疑問はもっともだ。
なにも異常が起きていないのなら、中を確認することはできない。
店は、すでに灯りが落とされていて、カーテンも締められている。
覗き見ることはできないし、まさか侵入するわけにもいくまい。
ただ、目に見えないものを確認する方法はある。
「一つ、手を打っておいた」
――――――――――
「真打ち登場なのじゃ」
えへん、という感じでプレシアが胸を張る。
プレシア・ソークェイド。
見た目は幼いけれど、立派な大人。
そして、魔法騎士団を束ねる団長でもある。
当然、それにふさわしい力を持つ実力者だ。
「わー、可愛いね。飴ちゃん舐める?」
「妾を子供扱いするでないわ!」
初対面のユミナは、にこにこ笑顔でプレシアの頭を撫でていた。
可愛いものが好きらしい。
気持ちはわからないでもないが……
プレシアとしては憤慨ものらしく、目を逆三角形にして怒っている。
「お兄ちゃん、この子は?」
「プレシアは……」
説明をすると、えっ、という感じでユミナが固まる。
「……この見た目で、魔法騎士団の団長……」
「ふふん、その通りじゃ。妾のことを侮るでないぞ? まあ、妾は寛大じゃからな。先の無礼は特別に……」
「そのギャップがたまらなく可愛い!」
「やはり無礼じゃなお主!?」
……うちの弟子がすみません。
「師匠、どうしてプレシアさんがここに?」
「夜になる前に、ちょっと連絡をしておいたんだ。力を貸してもらおうと思って」
俺達は剣に優れているが、魔法に関しては疎い。
魔力の流れなどは感知できない。
また、魔法が関わる隠蔽が行われていた場合、やはり見抜くことは難しい。
「……なので、プレシアに協力してもらおうと思い、話をしておいたんだ」
「それは助かるけど……団長っていう立場なのに、そんな気軽にほいほい動いていいの?」
「ガイには、色々と借りがあるからのう。それに……今回の件。妾の立場から見ても放っておくことはできぬ」
なるほど。
密かに魔法騎士団も動いていたみたいだ。
……とはいえ、公に動かない理由は謎のままだが。
そのことを尋ねてみると、
「妾としても、もどかしいところでな。いらぬ横槍が入り、邪魔をされているのじゃ。いつもの権力争いならいいのじゃが……なんとも言えぬな」
騎士団の動きを阻害する。
そのようなことは、果たして可能なのだろうか?
できるとしたら、相当な権力者だが……
一瞬、セリスの顔が思い浮かぶものの、即座に否定した。
彼女はそのようなことをする人ではない。
そうなると……
セリスよりさらに上の立場にいる者。
他の街の領主か。
あるいは……国が関わっている可能性もあるな。
あくまでも可能性。
しかし、注意するに越したことはないだろう。
「さて。では妾は、やるべきことをやるとするかのう」
魔法使いという、俺達とはまったく違う立ち位置にいるプレシアなら、あるいはなにか見つけられるかもしれない。
その期待は、果たして……?




