184話 気が合いました
ソーンさんを交えて食事を取ることに。
テーブルを五人で囲んで、それぞれの料理を口に運んで。
時折、水で喉を流す。
「……なるほど。ソーンさんは、今までにとてもたくさんの経験をされてきたんですね」
「……」
「いやはや、素晴らしいです。俺も見習いたいところですが、まだそこまでは……」
「……」
「え? 俺も相当なものだ? そうですか……あなたのような人にそう言ってもらえるのは、とても光栄です。ありがとうございます」
「……」
「そうですね。次は、一緒に酒を飲みたいですね。しばらくはこの街に? でしたら、適当なタイミングで飲みに行きましょう。俺はこの街で活動しているので、色々といい店を知っていますよ」
「……」
「ええ。こちらこそ楽しみにしています」
にこやかに談笑していると、
「し、師匠が兄さんと通じ合っている……あの兄さんと……超絶コミュ障の兄さんと……」
「拙者、ガイ師匠がどうして話ができているのか、わからないのでありますよ……」
「お兄ちゃんは、剣だけじゃなくて会話術もすごかった……?」
三人はわりと失礼なことを言っていた。
いや、まあ。
ソーンさんは、確かに寡黙なところがあるのだけど……
ただ、きちんと話をしてみると、大して問題ないことがわかった。
表情などで言いたいことがわかるというか。
同じ剣士だから通じるものがあるというか。
なんとなくではあるものの、こう言っているだろうな、というのが理解できた。
「アルティナならわかるだろう?」
「わからないわよ! 妹であるあたし以上に兄さんを理解するとか、なんか、すっごく複雑な気分なんだけど」
「む?」
妹であるアルティナなら、俺の言っていることを理解してくれると思っていたのだが……
なかなか難しいな。
「……」
「え? ああ、そうですね。すみません。アルティナに頼んで、わざわざここまで来てもらったのに要件を伝え忘れるなんて」
ソーンさんは、依頼の関係で近くまで来ていたものの、本来ならエストランテに立ち寄る予定はなかった。
そこをアルティナにお願いして、無理を言って立ち寄ってもらった。
その目的を伝えないとな。
「実は……」
伸び悩んでいること。
ソーンさんと会い、話をしたらなにか掴めるのではないかと思ったこと。
それらを素直に話した。
「ガイ師匠が伸び悩んでいるとしたら、拙者達は……」
「考えちゃダメだよ、ノドカさん。だって、お兄ちゃんだもん」
「むー……そういう相談なら兄さんかもしれないけど、あたしじゃダメってのが悔しいわね」
弟子達が微妙な表情をする中、ソーンさんは小さく頷いた。
優しさ。
厳しさ。
その二つが混ざったかのような、複雑な感情が伝わってくる。
「俺の悩みは理解できるけれど、そうそう簡単に解決する問題ではない……ということですか?」
「……」
「そうですね……確かに、その通りですね。あなたに会えば、と思っていましたが、今、目が覚めました。そんな都合のいい話はないですね」
アルティナの兄で。
同じ剣聖のソーンさんならば、なにかヒントをもらえるのではないかと思っていたが……
都合のいい話だ。
言葉一つで強くなる、迷いが取れる、壁を払うことができる……そんなことがあるのなら苦労はしない。
「……」
「え? 剣を交えてみる?」
「……」
「ええ、こちらこそお願いします。とても光栄です」
ソーンさんと握手を交わす。
「……師匠、兄さんはなんて?」
「今、言っていただろう?」
「あたしは兄さんの言っていることはよくわからないって、言ったでしょう」
「妹なのに?」
「妹だからこそ、よ!」
よくわからないな。
「試しに、一つ剣を交えてみよう、って」
「なるほど」
アルティナは真剣な表情で頷いた。
「師匠はでたらめに強いけど、でも、兄さんも、剣だけはものすごくて……え、なにこれ。よくよく考えてみると、めちゃくちゃ燃えるマッチング?」
「ガイ師匠とソーン殿の試合でありますか! それは、見ているだけで勉強になりそうですな!」
「こうしちゃいらないよ! すぐに準備をしないと!」
なにやら三人組が騒がしい。
普通にソーンさんと試合をするだけなのだけど、そこまで盛り上がる必要はあるのだろうか?
ちょっとだけ嫌な予感がした。




