176話 三人目
「と、いうわけで……これからは、私もお兄ちゃんと一緒だよ!」
叙勲式の翌日は、歓待の宴が開かれて。
その翌日、旅の準備をして……
さらに次の日、旅立とうとしたのだけど。
ユミナが、当たり前のような顔をしてそんなことを言い、一緒についてこようとした。
「いや、待て。それは……どういう意味だ?」
「私もお兄ちゃんの弟子になる、っていうこと♪」
まったく聞いていない。
もしや、先の王の言葉の意味は、こういうことなのか……?
アルティナとノドカを見ると、
「あたしも聞いていないわよ。ま、予想はしていたけどね」
「このままさようなら、なんて拙者は寂しいと思っていたので、大歓迎でありますよ!」
二人も知らなかったらしい。
知らないけど、歓迎らしい。
……いいのか、それで?
「えっと……待ってくれ。頭が追いついていない。どうして、ユミナが俺の弟子に?」
「元々、お兄ちゃんの弟子のようなものだよ」
「そう言われてみると、そうかもしれないが……」
同じ環境で剣を学んでいた。
時に教えることもあった。
その状況を考えると、ユミナの言葉を全て否定することはできない。
「ただ、ユミナは王女だろう……?」
「大丈夫。私、お飾りの王女だからね!」
とてもいい笑顔で言うユミナ。
いや、それは喜ぶべきところなのか……?
「他の兄弟が優秀すぎるし前向きすぎるから、継承権はないに等しいかな? だから、アロイスなんてヤツと婚約させられちゃうし」
「それは……」
「あ、別に今の扱いに大きな不満があるってわけじゃないよ? 王女っていうより、冒険者としての方が性に合っているから……そんなふるまいを普段からしていた、私も悪いもん」
「あたしも、ユミナは冒険者の方が似合っていると思うわ」
「ユミナ殿ならば、安心して背中を預けられるのでありますよ」
「ありがと♪」
三人は、以前よりも仲良くなっているような気がした。
事件を通じて、絆が深まったのだろうか?
女の子同士だから、という理由もあるのかもしれない。
「そういうわけだから、私は、この前みたいに、お兄ちゃんと……アルティナさんとノドカさんと一緒に冒険者をやりたいな」
「むぅ」
思わず、うめき声がこぼれてしまう。
ユミナは本気だろう。
冒険者に賭ける思いも本気だろう。
ただ、わざわざ俺のようなおっさんに師事しなくてもいいと思うのだが。
ユミナならば、引く手あまただ。
もっと良いパーティーに参加することも可能だろう。
……とはいえ。
ユミナ本人がそれを望んでいる。
アルティナとノドカも賛成している。
ならば、俺一人が積極的に反対する理由もない。
俺は、おっさんではあるが……
まだまだ精進しなければいけない身ではあるが……
一人の大人として。
若い子を導くのも、それはそれで一つの使命ではないだろうか?
おじいちゃんのように。
「……わかった」
「お兄ちゃん!」
「俺のようなおっさんがユミナも弟子にとるなんて、なかなか大きなことをしていると思うが……ただ、少しでも役に立てることがあるのなら、がんばろうと思う。それもまた、先に剣を学んでいる者がやるべきことだろう」
「ありがとう!!!」
ユミナは、ぱあっと晴れのような笑みを浮かべた。
そして、勢いよく抱きついてくる。
「「あーーーっ!?」」
なぜか、アルティナとノドカが叫ぶ。
「私、がんばるからね!」
「あ、あぁ……剣のことか? 俺も、できる限りを教えよう」
「うん! 色々と教えてね」
なぜだろう?
なにか、致命的に言葉が噛み合っていない気がした。
「これからも一緒だね、お兄ちゃん♪」
ユミナは、もう一度、にっこりと笑うのだった。




