175話 叙勲式
三日後。
大聖堂で叙勲式が行われることになった。
俺達が暴れて。
魔族も暴れて。
けっこうな損害を受けていたはずなのだけど、何事もなかったかのように、大聖堂は元通りだった。
聞くところによると、魔法をメインに修理したらしい。
エルフの魔法、すごいな……
「冒険者、ガイ・グルヴェイグ……前へ」
「はい」
叙勲式は進み……
王から言葉を授かることになり、俺は前に出た。
王の前で膝をついて頭を下げる。
ちなみに、アルティナとノドカは、後ろの方で同じように頭を下げていた。
二人にも叙勲が行われるのだけど……
まずは俺、ということらしい。
「汝の剣にて、この国に潜む魔を誘い出して、払いのけることができた。その活躍、功績は遠い未来まで語り継がれるだろう。汝という英雄を、この国は忘れない。もちろん、この私もだ」
「ありがとうございます」
「汝らの功績を讃えるには、長く長く言葉を紡がねばならないが……しかし、このような場で、そのような長話は邪魔であろう。故に、叙勲という形で感謝と賛美を示そう」
兵士が歩いてきて、王に指輪を差し出した。
王は、それを受け取ると、こちらを見る。
「ガイ・グルヴェイグよ。此度の働き、誠に見事であった。汝の活躍を讃えて、そして感謝の印として、ここに、『精霊の友』の称号と、その証となるイフリートリングを授ける」
エルフは、精霊と共に生きて精霊と共に生きる。
そう言われているらしい。
俺は、精霊の存在を感じることはできず、見たこともないが……
エルフにとっては、わりと身近な存在で、それでいてとても神聖なものらしい。
人間でたとえるなら、やや過大ではあるが、神様のようなものか。
そんな存在の友という称号。
それは、とても重く……
それでいて、ありえないほどに貴重なものだ。
言い換えれば、俺は、エルフの『友』として認められたことになる。
ユミナ曰く、史上初のことらしく……
ここまで盛大な式が開かれるのも納得だった。
「はっ、光栄であります」
称号を胸に刻み。
それから、指輪を受け取る。
真紅の指輪だ。
炎のような力強さを感じて。
太陽のように輝いていた。
これは……魔力、だろうか?
指輪から、妙な力を感じた。
ただの装飾品ではなくて、魔道具なのかもしれない。
すごいな。
感心しつつ、見惚れてばかりではいられないと、俺は指輪を右手の人差し指につけた。
それを王に見せる。
「うむ」
王は一言、満足そうに頷いてみせた。
それが合図となり、周囲の人々から拍手が贈られる。
アルティナとノドカも。
それと、王の後ろに控えていたユミナも、笑顔で拍手をしてくれていた。
こそばゆいな。
ただ……
今は、この拍手を素直に受け止めよう。
そして、心に刻もう。
これに甘えることなく。
おごることなく。
怠けることなく。
前へ、前へ。
己をしっかりと律して、常に精進していこう。
いただいた称号と指輪に恥じない剣士となろう。
「……ガイ・グルヴェイグよ」
ふと、王が、周囲に聞こえないように小声で話しかけてきた。
「王としてだけではなくて、親としても感謝する」
「え? それは……」
「公にはできないが、娘の婚約には納得していなくてな。どうにかできないか、と悩んでいたところだった。結局、アロイスの力を無視できず、されるがままになったが……」
「そうだったんですね」
ユミナは、ちゃんと愛されていた。
そのことが自分のことのように嬉しい。
あとで本人にも伝えよう。
「これは、王ではなく親としてのお願いだ。これからも、娘をよろしく頼む」
「はい」
……はい?
待った。
それは、どういう意味なのだろうか……?




