174話 いいから受けてちょうだい
「というわけで、お兄ちゃん達は、なにも問題なし! 罪人から、この国の英雄にガラッと変わったわけだね」
「やったわねー……ししょー……」
「それはふばらはぐはぐことでふはぐはぐな!」
アルティナは、半分寝てて。
ノドカは食べることを止めていない。
なんだかんだ、この二人はいつも通りだな。
その姿は微笑ましく……
そして、頼もしくも思えた。
二人のように、どんな時も動じることのない心を得たいな。
「うーん……アルティナさんとノドカさんは、なんていうか、欲望に正直なだけのような気がするんだけど」
「そうなのだろうか……?」
「だって、アレだよ?」
「スヤァ……」
「はぐはぐはぐ!!!」
「……かもしれないな」
苦笑。
ただ、これはこれで度胸があるというか。
肝が座っているため、見習うべきところはあるのだろうな。
「それで……さっきの叙勲の話だけど、お兄ちゃん、受けるよね?」
「いや、受けないが」
「えっ、なんで!?」
「なんで、と言われてもな……」
本来ならば、俺は、この国に多大な迷惑をかけている立場だ。
それなのに、叙勲というのは、さすがにおこがましいだろう。
「お兄ちゃんが気にするのも、わからないでもないけどね。ただ、今回は受けてほしいな」
「どうしてだ?」
「そうしたら、お兄ちゃんは、この国でそれなりの発言権を得る。それと、信頼も得られるの。今後、イルメリアと関わることはあるだろうし、得ておいて損することはないよ」
「それはそうかもしれないが……」
ユミナの言うこともわかる。
ただ、俺はわがままを通しただけ。
結果的によしとなったものの、本来なら、多大な迷惑をかけていた。
その覚悟をしていたとはいえ……
褒められるべき立場ではないと思う。
「……受けないとダメか?」
「ダメ♪」
イルメリアという国の立場もあるのだろう。
俺は、ユミナをさらおうとした犯罪者……ではあるものの。
同時に、魔族の脅威を払っている。
プラスとマイナス。
両方を持っているため、国も扱いに困るだろう。
どうせなら、良い話題を広げて、この国は安泰だ、と思わせた方がいい。
叙勲はそんな思惑も絡んでいるのではないだろうか?
「……わかった、受けよう」
俺に都合がよく、やや心苦しくはあるのだが……
ここで、国が思い描かない行動をとれば、どうなるかわからない。
それに、都合だけではなくて、純粋な好意もあると思う。
だからこその叙勲。
ならば、素直に受けておこう。
「よし、決まりだね! 日程が決まったらすぐに教えるから、もうちょっと待っててね」
「長いのか?」
「そんなにかからないと思うよ。国の英雄を、いつまでも待たせるわけにはいかないからね」
「英雄という柄ではないのだが……」
「英雄だよ」
ユミナは、真面目な顔で言う。
「魔族なんてものが本当に存在してて……しかも、国の中枢に入り込んでいた。これは、完全な裏付けがとれていない情報だけど、アロイスとかに色々接触していたみたい」
「そうなのか?」
「なにか、よからぬことを吹き込んでいたみたい。それで、暴走して私を……みたいな? まあ、どこまでがアロイスの意思で、どこまでがそそのかされた影響なのか、そこは判断できていないけどね」
「……厄介だな」
「下手をしたら、国はめちゃくちゃになっていたかもしれない。魔族がちょっと暴れて、悪いことをしただけで、国が二つに別れるところだったんだもん。それを、お兄ちゃんはなんとかしてくれた。救ってくれた。それに……」
ユミナは、そっとこちらに歩み寄る。
にっこりと笑い、俺の手を取った。
「……この手で、私のことを守ってくれた」
「それは……」
「イルメリアを敵に回すかもしれないのに、それでも、戦ってくれた。お兄ちゃんは……間違いなく、英雄だよ。私にとっての英雄だよ」
俺は……少しは誇っていいのだろうか?
無茶苦茶なことをしたが。
かなり無謀なことをしたが。
それでも。
ユミナという、妹のような女の子の笑顔を守ることができた。
俺の剣の意義を果たすことができた。
叙勲とか英雄とか、そういうのは柄ではないが……
ユミナを守れたことについては、胸を張っていいのかもしれない。




