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169話 魔族の剣士

 前傾姿勢で、体を低く、フェルミオンが駆けてきた。


 速い。

 が、脅威というほどではない。

 きちんと視認できて、動きも予測できる。


 ただ……


「くっ……!?」


 フェルミオンは、ただ前傾姿勢で駆けているだけ。

 それなのに不可視の刃が動いて、右から襲いかかってきた。


 防ぐことができたのは、ただの勘だ。

 反射的に剣を盾のようにして、不可視の刃を防ぐ。


 剣に伝わる感触は、それほど重くない。

 不可視故に軽量化されているのか?

 それとも、速度を重視した設計で軽量化されているのか?


 ……いかんな。


 今は戦闘に集中しなければいけないのに、相手の剣のことが気になって仕方ない。

 不可視の剣なんて初めて見たからな。

 剣士として、普通に気になってしまう。


「ガイ師匠、拙者達も……!」

「ダメよ」


 前に出ようとしたノドカを、アルティナが止めた。


「なんででありますか!?」

「ノドカは、あれ、対処できる?」

「それは……」


 不可視の剣というのは、思っている以上に厄介なものだ。


 当たり前の話ではあるが、まず、剣が見えないので攻撃を完全に読むことができない。

 避ける、防ぐことが難しい。


 しかも、その不可視の剣は一本だけではない。

 おそらくは……五本。

 フェルミオンの周囲を漂い、浮かんでいる。


 そこから繰り出される攻撃を回避、防御することは難しい。

 また、その防御網をくぐり抜けて攻撃を届かせることも難しい。


 なによりも厄介なのは、フェルミオンが剣を握る姿が見えない、ということだ。


 剣士なら剣を握る。

 当然の話ではあるが、これは、けっこう大事なことだ。


 剣を握る姿を見て、そこから次の行動を予測できる。


 たとえば、大きく剣を構えていたら、大上段などの一撃が来る。

 逆に浅く構えていたら、突きなどが来ると予想できる。


 剣を持つ姿。

 構えなどから、色々な情報を得ることができて、次の行動を予測できる。


 しかし、フェルミオンは剣を構える必要はない。

 剣も不可視で見えなくて、その軌道を読むことができない。


 剣士でありながらも、剣士の常識が通用しない。

 このような厄介すぎる相手は初めてだ。


 まずは俺が戦い……

 アルティナ達には、そこから、対策などを考えてもらう。

 それが一番だろう。


「あなた……すごいですね」


 十数回、切り結んだところで、一度、フェルミオンは下がる。


「初見で、私の剣に対応できた者なんて、今までいなかったのですが……」

「完全に対応できているわけじゃないさ」


 どうにか致命傷を避けただけ。

 それ以外の大小様々な傷ができている。


「こういうセリフは少し恥ずかしいのですが、私と戦い、生き延びた者はほとんどいないのですけどね」

「なら俺は、生き延びた栄誉を得たわけだな」

「そうですね。とても素晴らしいことかと」

「自分で言うか」

「ですから、少し恥ずかしいのですよ」


 フェルミオンは笑い、


「ただ、私もそれなりのプライドというものがありまして……このまま、あなたを殺せずにいたら、けっこう傷ついてしまいそうです」

「傷つくことで、より大きく成長できることもあるとは思わないか?」

「私、そういう根性論は嫌いです♪」


 フェルミオンは笑い、


「なので、殺させていただきますね♪」


 やはり、フェルミオンは笑う。

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