164話 本物と偽物
「私の邪魔をするヤツは死ねぇっ!!!」
アロイスが魔剣で斬りかかってきた。
俺は、しっかりとアイスコフィンを両手で握る。
強く力を込めて、魔剣を受け止める。
「……っ……」
重い一撃だ。
アロイスが一流の剣士というのは間違いなさそうだ。
そんな彼が魔剣を操る。
……この戦い、厳しいものになるかもしれないな。
「お兄ちゃん!」
武器を持たないユミナは後方に。
ただ、なにもしないわけではなくて、足元の小石を拾い、投擲。
矢のように鋭く飛ばして、アロイスを狙い撃つ。
「ユミナエル、貴様っ、誰を狙っている!? 私は、貴様の夫だぞ!!!」
「結婚なんてしていないから! 勝手に決めないで!」
「くそっ、どいつもこいつも私に逆らうなんて……!」
アロイスは、でたらめに魔剣を振り回してきた。
技術は感じられるものの、戦術は感じられない。
全力の一撃を繰り返し放つ、という感じか?
それでも、厄介で、脅威であることに変わりない。
でたらめな戦い方とはいえ、一撃一撃の威力は相当なものだ。
きちんと防いでいるものの、あまりの威力の高さに、少しずつ手が痺れていく。
なんていう馬鹿力。
いや。
これも魔剣の力なのだろうか?
だとしたら、アロイスの背後には魔族がいる?
それとも、アロイス自身が……
「お兄ちゃん!?」
「くっ」
ユミナの悲鳴に近い声で、目の前に迫る斬撃に気づいた。
体を捻り、危ういところで回避する。
危ない。
というか……
「俺は、やはり、まだまだ未熟だな」
戦いの最中に、まったく別のことを考えてしまうなんて。
剣士として、わりと致命的なミスだ。
色々と懸念はある。
不安もある。
ただ、今はアロイスと戦うことだけに集中しよう。
それだけを考えて戦うことにしよう。
それが、俺のやるべきことだ。
「……いくぞ」
気持ちを切り替えて、今度は、こちらから攻撃をしかけた。
縦に一閃。
続けて、横に刃を薙ぎ払う。
十字を描くような攻撃に、しかし、アロイスはしっかりと対処してみせた。
二つの斬撃を受け止める。
ただ、そうなることは予想済。
さらに斜めの一撃を繰り出した。
「くっ……!?」
三撃目は予想していなかったらしく、アロイスの対処が遅れた。
防ぎはするものの、動きが遅れたせいで、わずかにバランスを崩す。
そこでさらに攻撃をすることはしないで、あえて後ろに下がる。
ふむ……?
「ちっ……劣等種のくせに、なかなかやるな」
「その劣等種というのは、人間のことか?」
「当たり前だ。大した力を持たず、長い時を生きることができない。身内で争うような愚か者ばかりだ」
「……耳が痛いな」
その全てに納得はしないものの、痛い話もある。
俺も、家族と争っていたからな。
ただ……
「なら、エルフは違うのか?」
「当たり前だ。劣等種と、我ら優れた種であるエルフを一緒にするな」
「力と権力で脅して、女の子と無理矢理結婚しようとすることが、優れている証なのか?」
「貴様っ!!!」
挑発すると、あっさりと釣れてくれた。
激昂したアロイスが突撃してくる。
……それを待っていた。




