162話 影はいつもそこに……
「師匠!」
「ガイ師匠!」
兵士を蹴散らしつつ外に出ると、アルティナとノドカが駆け寄ってきた。
二人はけっこうな戦いをしたらしく、肩で息をしている。
ただ、俺の隣にいるユミナを見ると、苦労なんてなんのその、という感じで笑顔になった。
「ユミナ! よかった、ちゃんと、こうしてまた……あーもう、本当によかった!」
「うううぅ、ユミナ殿、よかったでありますよ。このように、一人でなにもかも抱え込まないでほしいのでありますよ……困っていることがあれば、話してほしいのでありますよ」
「……うん、ごめんね」
二人に抱きつかれて、ユミナも笑顔に。
その瞳には、少し涙が浮かんでいた。
嬉しいという気持ち。
迷惑をかけてごめんなさいという気持ち。
二つの想いを抱えて、心が高ぶっているのだろう。
このまま再会を喜びたいところだが……
「アルティナ、準備は?」
「オッケーよ!」
「なら、行こう!」
逃げるが勝ち……だ。
この先、転移魔法を起動できる魔道具を設置しておいた。
起動に時間がかかるため、その管理はアルティナとノドカに任せていたのだけど……
さきほどの合図は、準備完了、というもの。
すぐに魔道具を使い、このままエルフの国から逃げることにしよう。
その後は……
まあ、どうにかなるだろう。
もうエストランテに戻ることはできないかもしれないが……
そういう時もある。
あるいは、なんとかなるかもしれない。
暗いことばかり考えても仕方ない。
今は、無事にユミナを助けることができたことを喜び、前を向いていこう。
「ってか、ユミナってば、けっこう綺麗ね。こんな時じゃなければ、あたしも着てみたいかも」
「拙者もでありますよ」
「二人なら、きっと似合うと思うよ」
「ありがと。でも、相手が……」
「なかなか気づいてくれず……」
「あー……」
三人は、なぜか妙な表情でこちらを見る。
なんだ?
どうしたんだ?
「三人共、急ごう」
「ほら、こんな反応だもの」
「あはは……苦労する、っていうのは、私もよくわかるよ」
「でも、止められないのであります」
「「「うんうん」」」
だから、謎の結束を見せないでほしい。
とにかく、今は脱出を……
ザンッ!!!
行く手を塞ぐかのように、極大の斬撃が目の前を駆け抜けた。
紙のように木々を切り裂いて、大地に大きな亀裂を生み出す。
それをやったものは……
「ここまで私をコケにしておいて、そのまま逃げられるとでも……?」
アロイスだった。
右手に黒い剣を下げて。
多くの兵士を引き連れて、激怒した様子でこちらを睨みつけてくる。
「逃がしてくれると嬉しいけど、さすがに、そういうわけにはいかないわね」
「立て直しが早いでありますね……こういうところは、さすがと言うべきでありますか」
「みんな、気をつけて。性格は最低だけど、剣の腕は一流よ。下手をしたら、やられちゃうかも。お兄ちゃんも気をつけて……お兄ちゃん?」
「……」
ユミナが怪訝そうにこちらを見る。
それも当然だろう。
俺は、一言も発することなく、ひどく警戒した様子でアロイスを見ているのだから。
ユミナのアロイスに対する評価は、中の上という感じだろうか?
手強い相手だけど、油断をしなければなんとかなる。
ただ、俺の評価は違う。
アロイスは……いや。
アロイスが持つ剣は……




