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161話 花嫁をさらうのは世の常

「あの男を殺せっ!!!」


 激昂したアロイスの命令で、兵士達が一斉に突撃をしてきた。


「ユミナは俺の後ろへ」

「う、うん……!」


 ユミナは心配そうにしつつも、素直に従ってくれた。


 武器を持っていないから対処は厳しい。

 それに、相手はエルフ。

 同胞と戦うのは、さすがに酷だろう。


 ここは俺の出番だ。


「悪いが……」


 襲い来る兵士達。

 綺麗とさえ思える連携を披露して、連続で攻撃を繰り出してくる。


 精密かつ大胆。

 その苛烈な攻撃は、本来ならば、一瞬で相手を制圧できるだけの力があるのだろう。


 ただし。


「捕まるつもりはないし、ユミナをお前達に渡すつもりもない」

「なっ……!?」

「ば、バカな!」


 兵士達はとても見事な連携攻撃を見せてくるのだけど、しかし、完璧ではない。

 わずかなタイミングで穴があり、回避が可能だ。


 それを見つけた俺は、そのタイミングを狙い、全ての攻撃を回避。

 同時に反撃を繰り出して、三人を吹き飛ばした。


「退いてもらおうか」


 続けて、こちらからの攻撃。

 しっかりと柄を握り、剣を一閃。


 兵士が持つ剣を、半ばから切断して。

 刃を横にして叩くことで、鎧を砕いて。

 刃の腹を相手にあてがうようにしつつ、そのまま勢いよく振り抜いて、投げてやる。


 基本、剣は『斬る』ものだ。

 ただ、それだけで戦うとなると、どうしても視野と戦術が狭くなってしまう。


 『斬る』だけではなくて、『潰す』。

 あるいは、剣を利用することで相手を投げるなど、体術的な応用もする。

 幅広い対処が可能だ。


「くっ……こいつ、強いぞ!?」

「怯むな、囲め! 人間などに遅れをとってたまるものか!」


 兵士達は怯まない。


 大胆な攻撃はやめ。

 慎重になり、こちらの隙をついて攻撃を繰り出してきた。


 しかし、甘い。


 その隙は、あえて見せた隙。

 いわゆる『罠』であり『誘い』だ。


 思うように動いてくれた兵士を迎撃して。

 ついでに、その兵士が落とした剣をブーメランのように投げて、今まさに、襲いかかろうとしていた兵士の足を止めた。


「ふぅ……」


 軽く吐息をこぼしつつ、乱れた呼吸を整える。


 さすがに、この人数を相手にするのは大変だ。

 少しずつ疲労が溜まってきているな。


 兵士達はなにも悪くないわけで……

 あまり大きな怪我をさせないように、手加減しなければいけないのも厳しい。


 なにも気にすることなく、剣を振るうことができれば、かなり楽になるのだけど……

 さすがに、それは外道のやることなので、いくらなんでもダメだ。


 ユミナは確保した。

 なら、脱出をしないといけないのだけど……


 ヒューーーンッ!


 その時、外から甲高い音が空に伸びていくのが聞こえた。

 準備はできた、という、アルティナとノドカからの合図だ。


「待っていた!」

「えっと……お兄ちゃん、今のは?」

「頼もしい仲間からの合図だ。行けるか?」

「もちろん!」


 ユミナはいつもの元気を取り戻していた。

 やはり、ユミナは笑顔の方がよく似合う。


 この笑顔を守るために、今、俺達はここにいる。

 そう考えると、この行動は間違っていないと、自分に誇ることができた。


「待ちなさい!」


 アロイスが憤怒の表情で叫ぶ。


「ユミナエル、あなたは私のものなのですよ!? それなのに、このような勝手が許されるとでも!? あなたは、自分の立場を忘れたのですか!」

「それは……」

「さあ、戻ってきなさい。今なら、特別に、この騒動を見なかったことにしてあげましょう。その男も助けてあげましょう。あなたの判断で、この男の……外で騒いでいる連中の命も救えるのですよ? さあ、懸命な判断を期待しましょうか」

「……本当なら、そうするべきなんだろうけどね」


 ユミナは、迷いを見せた。

 でも、それは一瞬。


 すぐに迷いを振り切り、アロイスを睨みつける。


「私は王女で、その責務とかも、ちゃんと自覚しているつもり」

「ならば……!」

「でもね? そういった責務とか諸々含めても、あなただけは無理!」

「なっ……!?」

「絶対の絶対に無理! 責務とか、そういうものを上回るくらいに、生理的嫌悪がすごくて、本当にもう、生理的に無理!!!」

「んなぁ……!!!?」


 これ以上ないほど、圧倒的な拒絶を叩きつけられて、アロイスは愕然とした表情で崩れ落ちた。


 あー……うん。

 彼の強引なところは怒りを覚えていたが、ただ、今だけは同情してしまう。


「さ、お兄ちゃん。行こう?」

「あ、ああ……そうだな」


 女性は恐ろしい。

 そんなことを思うのだった。

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