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159話 己の価値

 ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアード。


 エルフの国の王女として生まれて。

 王女としての教育を受けてきた。


 いずれ王位を継ぐか。

 あるいは婚姻を結び、王妃となる。


 国を束ねて。

 国のために身を捧げて。

 民を導いていく。


 それが私に与えられた役目。

 私が成すべきこと。


 それについて、最初は、なにも疑問を抱かなかった。

 そうすることが当たり前で、とても自然なことで、国に身を捧げることを覚悟していた。


 ただ……


 ある日、お兄ちゃんに出会った。


 優しくて。

 でも、時々、少し厳しくて。

 今までに会ったことのない人。


 それと、剣にも出会った。


 剣という力。

 それは、単体ではなにも意味を持たない。

 でも、そこに目的や意味を持つことができれば、とても大きな力に変わる。


 そのことをお兄ちゃんやトマスおじいちゃんに教わった。


 その日から、私は、私になった。


 エルフの国の王女ではなくて。

 ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアードでもなくて。

 ただのユミナになった。


 なったのだけど……


 でも、そんな私になんの価値があるのだろう?

 なんの意味があるのだろう?


 どれだけ外の世界に触れて、憧れたとしても、私が王女であることに変わりはない。

 いずれ、国に身を捧げなければいけない。

 その運命から逃げることはできない。


 そう考えた時……

 ふと、どうしようもない虚しさを覚えた。


 私は、ユミナになったつもりだった。

 言いなりだった自分を捨てて、個を手に入れたつもりだった。


 でも、それは勘違い。


 だって……

 ユミナには、なんの価値もない。

 誰も見てくれない。


 必要としているのはユミナエルだけ。

 ユミナのことなんて。

 私のことは、誰も……


 そんな空っぽの私だけど。

 なにも持たない私だけど、演じることは得意だった。


 ユミナエルの時は、おしとやかで清楚な王女。

 ユミナの時は、元気で明るい冒険者。

 そんな二つの顔を使い分けて、そして、うまく演じることができていたと思う。


 今にして思うと、それは、憧れなのだろう。

 こうありたい、という私の願望。

 それが表になって形になったもの。


 ユミナになりたい。

 あるいは、ユミナエルでもいい。

 どちらにしても、私は、私らしくありたい。


 ただ、国に言われるままに動くだけじゃなくて。

 命令されないと、なにもできない人形であることを止めて、私自身で考えて、行動したいと思った。

 人形であることをやめたいと、そう思った。


 だって……


 お兄ちゃんと出会って、それまでの自分に疑問を持ったから。

 ちゃんと自分の意思で歩いていきたいと、そんな自由な人生に憧れたから。


 憧れたのだけど……


 私の価値は、どこにあるのだろう?

 誰もが王女である私を求めている。

 ただのユミナに用はない。


 そうか。


 結局のところ、私は人形なんだ。

 人でなくて、人形であることを求められているんだ。

 それ以外は必要ない。

 いらない。

 なにもいらない。


「……私は……」


 誰にも。

 家族にも。

 国にも。

 民にも。


 なにも求められていない、ただの人形だ……

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