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157話 いざ作戦決行!

 エルフの国、イルメリア。

 そこに建てられた教会は、数百年の歴史を持つ、一般人は立ち入ることができないとても神聖な場所だ。


 教会内は、式のための飾りつけがされていた。


 とはいえ、あまり派手なものではない。

 落ち着いた色の花を基本として、自然で彩られている。

 自然と共生するエルフらしい装飾だった。


 広い教会の中。

 イルメリアの貴族達が参列席に並ぶ。


 王女が結婚をして、これで国の未来は安泰だ。

 そう考えて、明るい顔をするもの。

 強引な結婚ということを理解して、王女に同情して、暗い顔をするもの。


 それと、王女が結婚することで利益を得るもの。

 その連中は、ニヤニヤと笑っていた。


 一度、静かに教会の頂上部に設置された鐘が鳴る。


 同時に、教会の扉が開かれた。

 中央に敷かれた赤い絨毯の上を、二人の男女が歩く。


 純白のウェディングドレスに身を包んだユミナ。

 そして、その伴侶になる予定のアロイスだ。


 二人は腕を組み、ゆっくりと前に進んでいく。


 アロイスは不敵な表情を浮かべていた。

 この場の支配者は自分だ。

 皆、ひれ伏すがいい……そう言っているかのようだ。


 対するユミナは、ウェールをかぶっているため、顔はよく見えない。

 ただ、うつむき加減で、歩く速度も遅い。


 この先に行きたくない。

 結婚なんてしたくない。

 そんな気持ちが現れているかのよう。


 とはいえ、ここまできたら、もうどうすることもできない。

 どれだけ嫌だとしても、アロイスと結婚するしかない。

 結婚を受け入れたのは自分なのだから。


「このよき日に、このような素晴らしい時に立ち会えること、幸せに思いましょう」


 二人は神官の前で足を止めた。

 神官は笑顔で両手を広げて、高々と言う。


「今日ここに、新たな夫婦が誕生します。共に幸せな時間を歩いて、時に力を合わせて困難に立ち向かい、そうして絆を深めていく……それは、かけがえのない宝となるでしょう。その素晴らしい瞬間を一緒に迎えたいと思う方が全てでしょうが、あえて、問いかけましょう? この結婚に反対する者は?」

「「「……」」」


 神官の問いかけに誰も言葉を発しない。

 挙手をするなど、体を動かすこともない。


 賛成。

 反対する者なんていない、ということだ。


「よろしい」


 神官は満足そうに頷いた。


「この結婚は、イルメリアの全てによって祝福された! 絶対的に正しいことである」

「……」

「故に、今から、式を執り行い、二人を正式な夫婦にいたしましょう」

「……」

「では、まずは……」


 神官は、よくある祝詞を口にした。


 人間が結婚する時と似ているが、しかし、異なる部分もある。

 人間の場合は、夫婦で共に力を合わせて、いつも一緒にいること……というような感じだ。


 ただ、イルメリアの……エルフの祝詞は違う。

 基本は、結婚をして幸せな家庭を築くこと。

 でも、妻は夫を支えて、なにがあろうと、生涯に渡り愛を捧げて、絶対的に従わないといけないらしい。


 エルフからしたら、それは当たり前なのかもしれない。

 国によって風習や価値観は違う。

 ましてや、種族が異なれば、そのズレは大きくなるものだ。


 現に、色々な反応を見せていた参列者達も、この祝詞に対しては違和感を覚えていない様子。

 それが当たり前のものであると受け入れて、認識しているのだろう。


 人間の価値観が正しいか?

 それとも、エルフの価値観が正しいか?


 これに関しては、答えは一生出ないだろう。

 というか、答えなんてない。


 人の数だけ思想がある。

 種族が違えば、さらに正解が増えていく。

 どちらも正しいのだ。


「……では。ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアード。あなたは、アロイス・ラ・ホーンウォードを夫として愛して、生涯を捧げることを誓いますか?」

「……」

「ユミナエル様?」

「……誓います」


 ユミナは、振り絞るような、とても小さな声で言った。


「アロイス・ラ、ホーンウォード、あなたは、ユミナエル・ネルゼ・ル・シルスアードを妻として愛することを誓いますか?」

「ええ、もちろん誓いますよ」


 アロイスは、やはり不敵な表情を浮かべたまま、神官の問いかけに頷いた。


「よろしい。では、誓いのキスをここに」

「ふふ」


 アロイスは笑みをこぼしつつ、ユミナがまとうヴェールを上げた。


「綺麗ですね」

「……」

「やれやれ、だんまりですか? まあ、反抗的な言葉をぶつけられるよりはマシですね」

「……」

「まだ、色々と納得していないようだけど……くくく。いいですね。そういうあなたを、ゆっくりと調教して、私なしでは生きられないようにする……あぁ、ダメだ。想像しただけで高ぶり、達してしまいそうになりますよ。今日は、最高の日になりそうですね」

「……」

「では、皆をあまり待たせるわけにもいかないので、そろそろしましょうか」


 アロイスは、そっとユミナの頬に手をやる。

 そして、顔を近づけて……


「……たすけて……」


 ユミナは、誰に対する言葉かわからないのだけど……

 心からのものであると思われる言葉を発した。


 涙が一筋、頬を伝う。

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