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155話 賢い判断

「ごきげんはいかがですか?」


 とある日の夜。

 ユミナの部屋をアロイスが訪ねてきた。


 夜に女性の部屋を訪ねる……

 しかも、相手は王女。


 普通ならば、問題になるほどの失礼な行為だ。

 ただ、アロイスはユミナの婚約者。

 式も明日、挙げられることになっていて……


 彼ならば問題ないだろう。

 なにか起きたとしても、誤差の範囲。

 気にすることはない。


 ……そのような判断で、アロイスは、ユミナの部屋に入ることを許された。


「……」

「おや、私の言葉が聞こえていないのですか?」

「……聞こえているわ」


 ユミナは窓の外を見たまま、振り返ることなく答えた。


「やれやれ」


 アロイスは苦笑して……

 ツカツカとユミナの元に歩み寄り、その体を抱くようにして、強引に振り返らせる。


「っ……!?」

「そのような態度はいただけませんねぇ……キミは明日、私の妻になるのですよ? もっと、夫を敬ってもらわないと」

「誰が、あなたなんかを……!」


 ユミナは、アロイスを睨みつけた。

 とても強い視線で、そこに力があれば、アロイスは刺し殺されていただろう。


「あなたみたいな最低な人、愛してなんかいない!」

「ほう。ならば、なぜ婚約を受けたのですか?」

「白々しい……! 家の力を使い、強引に話を進めたくせに」

「どうしても、あなたが欲しくて、つい」

「嘘。あなたは、私なんて見ていない」

「……」

「王女、っていう私の立場が欲しいだけ。私のことなんてどうでもいい、欠片も愛していない。そんな人と結婚したいなんて、思うわけないじゃない」

「しかし、あなたは婚約を受けた。私と結婚することを了承した」

「それは……」


 ユミナは、再びアロイスを睨みつけた。


 決して望んだわけではない。

 各方面から圧力をかけられて……

 色々なものを盾にされて……


 そしてなによりも、ガイ達を守るため。


 あのまま拒み続ければ、アロイスは、必ずガイ達に危害を加えていただろう。

 目的のためならば、無関係の人であろうと巻き込む。

 刃を向けて、欠片も気にすることはない。


 それが、アロイス・ラ・ホーンウォードという存在だ。


「別にバカにしているわけではありませんよ? あなたは賢い判断をした。女は感情的で、知恵がなく、私のような男を飾るだけの花ではありますが……まあ、今回の判断については褒めてさしあげましょう。よくできましたね。その調子で、それなりに使えるところを見せてくれるのならば、特別に私の愛を授けてあげますよ?」

「誰がそんなもの……!」

「……ふむ」


 アロイスの表情から笑顔が消えた。


 刺すような鋭いものとなり……

 ガシッと、ユミナの手を強く掴む。


「いたっ……!?」

「明日も、そのような態度を取られては困りますからね。今のうちに躾をしておきましょうか」

「な、なにを……」

「私は、確かにあなたのことを愛していない。王女という立場を愛していますが……しかし、あなたの顔と体は、それなりに愛することができそうなんですよ?」

「ひっ……!?」


 蛇のように絡みつく、ねっとりとした視線。

 ユミナは恐怖を覚えて、体の力を抜いてしまう。


 その隙を狙い、アロイスはユミナをベッドまで連れていき、そのまま押し倒した。


「や、やめっ……やだ、やめて!」

「あなたが悪いんですよ? この私に、ここまで反抗的な態度をとるから」

「だって、それは……」

「さて、味見をさせていただきましょうか」


 アロイスは、ゆっくりとユミナの体に顔を近づけて……


「……いやっ!!!」


 ユミナは体を捻り、どうにかアロイスの拘束から逃れた。

 部屋の端まで逃げて、息も荒く、アロイスを睨みつける。


「……はぁ」


 しばしの沈黙の後、アロイスはため息をこぼした。


「やれやれ、頑固な人だ。この私の寵愛を受けるチャンスだというのに」

「そんなもの……いらない!」

「まあ、今はいいでしょう。一気に花を折ってしまうよりも、まずは愛でて、それからゆっくりと攻略していくのも、それはそれで楽しい」

「あなたっていう人は……!」

「明日という日を楽しみにしていますよ? ふふふ」


 アロイスは乱れた衣服を手で整えると、そう言い残して立ち去った。


 一人残されたユミナは、すぐに動くことはできなくて……

 そのまま床に座り込んでしまう。


「うっ、うぅ……」


 涙がこぼれる。

 それを拭うことができる者は……今は、いない。


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