149話 覚悟はあるか?
情報屋から得た話を整理して。
皆で共有して。
そして、家で今後のことを話し合う。
「絶対に助けに行くべきよ!」
アルティナは、自分のことのように怒りつつ、強い口調で言った。
「望まない結婚を強いられるとか、絶対、ぜぇぇぇぇぇったいに許せないわ!!! 女の敵よっ! 斬る!!!」
「自分もアルティナ殿に賛成でありますよ!」
ノドカも追随した。
「その外道を許せないだけではなくて……そもそも、拙者達が足枷となり、ユミナ殿に迷惑をかけてしまったのでありますよ!」
シデンから得た情報によると……
ユミナが結婚を承諾した背景には、俺達のことが多少、関係していたらしい。
結婚を承諾しないのならば周囲に害が及ぶかもしれない。
そう脅されていた可能性が高い、らしい。
そのことを知り、ノドカは、とても悔しそうに苦しそうに表情を歪める。
「これは、ある意味で拙者達の責任でありまする。故に、放置することなどできませぬ! ユミナ殿は、一時、パーティーを組んだだけではありますが、色々と良くしていただきました。だからこそ、このままではダメなのですよ!」
「……二人の想いはわかった」
きちんと話を聞いて。
それから、俺はゆっくりと口を開いた。
「俺も、二人に賛成だ。このままでいいわけがない」
「それじゃあ……!」
「ただ、これ以上、ユミナの問題に関わるとなると、エルフを……いや。エルフの国そのものを敵に回す恐れがある。それは理解しているか?」
「それは……」
「その……」
そこまでは考えていなかったらしく、アルティナとノドカは戸惑い顔に。
今回の婚約、結婚。
ユミナの意思に反するものだとしても、相手が強引な手を使っていたとしても。
ユミナがそれを受け入れている以上、『正しい』ことなのだ。
もしも、俺達がそれを阻もうとすれば、悪はこちらになる。
犯罪者として扱われることになるだろう。
それだけじゃない。
最悪、エストランテでも犯罪者として扱われるようになり……
指名手配。
あるいは、冒険者資格の停止などもありえる。
全てを失うかもしれないのだ。
アルティナとノドカには、そのことをしっかりと考えてほしい。
「……それでも、あたしの考えは変わらないわ」
ややあって、アルティナはまっすぐに俺を見た。
その瞳に迷いはない。
「一緒にいたのは短い時間だけど、でも、あの人の剣はとてもまっすぐで綺麗だと思ったわ。あんな技を持つ人が、つまらないことで潰されていくところなんて、絶対に見たくない。一人の女として、一人の剣士として、見過ごせない!」
「拙者も同意見でありますよ」
ノドカも頷いた。
「言いたいことは、だいたい、アルティナ殿が言ってくれたのですが……あえて付け足すのならば、冒険者でなくなったとしても、拙者はまったく気にしません」
こちらも迷いなく言い切る。
「冒険者であることを望むのならば、ユミナ殿を助けられない……そうだとするのならば、拙者は、冒険者であることを捨てましょう。誰かを助けることができない冒険者なんて、なんの未練もありませぬ。そのようなものよりも、拙者は、誰かを助けることを望むのでありますよ」
「……そうか。二人の気持ちはよくわかった」
アルティナとノドカのことを、少し軽く見ていたのかもしれない。
二人は正義感がとても強く、ユミナを見捨てるなんてこと、するわけがないと思っていたが……
ただ、同時に真面目でもある。
冒険者でいられなくなるかもしれないと聞けば、迷うと思っていた。
ただ、実際は違う。
一切迷うことなく。
己の信念を貫く覚悟を見せた。
いつの間にか大きく成長していたようだ。
まいったな……
師匠としての立場がない。
俺が彼女達に学んでいるような感じだ。
よし。
これ以上、かっこ悪いところは見せられないな。
ちゃんと師匠らしいことをしなければ。
「師匠は……どうするつもりなの?」
「助けに行くでありますよね……?」
不安そうな二人の視線。
俺は、それを晴らすようにしっかりと頷いてみせた。
「もちろんだ」
ぱぁっと、アルティナとノドカが笑顔になる。
「ユミナは妹のような存在で……そして、弟子のような存在でもある。弟子が困っているのなら、師匠として、それを放っておくことは……いや」
回りくどい言い方はやめておこう。
素直な気持ちを並べた方がいい。
「ユミナが困っているのなら、俺は、彼女を絶対に助けたい」
「ええ、もちろんよ!」
「絶対に助けるのでありますよ!」
俺達は決意を固めて、なにがあろうと……冒険者の資格を失ったとしても、ユミナを助けるうと誓うのだった。
◇ お知らせ ◇
新作はじめました!『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』
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ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!




