146話 放っておけない、理由はそれで十分
あれから家に帰り……
そして、リビングでこれからについて話し合うことにした。
「師匠もわかっているでしょ? ユミナの様子、絶対におかしかったわ」
「アルティナ殿に同意でありますよ。なにか、こう……辛いことを隠しているような感じでありました」
アルティナとノドカは、口々にユミナの異変を訴える。
鈍いと言われている俺ではあるが……
二人が言うように、ユミナの異変にはもちろん気づいていた。
ただ……
その上で、あの場はおとなしく見送るしかなかった。
「わかっている。前に、情報屋から話を聞いたこともあるが……ユミナは、俺達が思っている以上に大きな問題に巻き込まれているんだろう」
「なら……!」
「わかってはいるが……そう簡単に動くこともできない」
ユミナと別れた時。
妙な気配を感じた。
ともすれば見逃してしまいそうな、とても小さな気配。
殺気に等しい、害意。
それは俺達に向けられていて……
その敵意が発せられると同時に、ユミナが距離を取るようになった。
もしかしたら脅されているのかもしれない。
だとしたら、ますます放っておけないのだけど……
ただ、敵の正体が不明というのが厄介なところだ。
なにも知らない状態では対処が難しい。
それで、もしもアルティナやノドカになにかあれば?
俺が怪我を負えば?
ユミナは優しい子だ。
自分のせいだ、と責めるだろう。
そうなることは避けたい。
そして、アルティナやノドカが傷つくようなことも避けたい。
「もちろん、ユミナのことを放っておくつもりはない」
ユミナは、たぶん、俺達を巻き込まないとしているのだろうけど……
今更の話だ。
ここまで関わっておいて、見なかったことになんてできない。
おせっかいだろうがなんだろうが、手と口を出させてもらう。
「ただ、行き当たりばったりで動くわけにはいかない。まずは、今以上の情報が必要だ」
ユミナは今、どのような問題を抱えているのか?
彼女を苦しめる敵は、どのような存在なのか?
最終的にどのような道に至れば問題を解決できるのか?
その答えにたどり着くために。
今現在の問題を詳細に把握するために。
「……もう一度、シデンに声をかけてみるか」
とにかくも情報が必要だ。
少し時間が経っているから、情報が更新されているかもしれない。
「……こういう時」
アルティナが、ぽつりと、そして悔しそうに言う。
「剣しかできない、っていうのが悔しいわ……」
「拙者もでありますよ……」
「そう嘆くものでもないさ」
二人を励ますように、その頭をぽんぽんと撫でた。
ついつい、こうして子供扱いしてしまうのだけど……
二人は怒ることなく、どこか心地よさそうにする。
「人は、それぞれに得手不得手がある。俺達は、情報を扱う術を持たないが、しかし、剣を扱うことができる」
「それは……」
「剣を扱えるということは、そのまま力となる。もちろん、ユミナに何が起きているのか、それを知れないというのは悔しいかもしれないが……しかし、彼女が困っていた時、剣の力で助けることができる。それは、誇ってもいいことじゃないか?」
「……そうでありますな!」
ノドカの表情が、ぱぁっと明るくなった。
次いで、アルティナも雰囲気が和らぐ。
「あたし、ちょっと焦りすぎていたのかも……」
「気持ちはわかるさ」
「師匠も焦っていた?」
「そうだな。ユミナは妹のように思っているから……もどかしさはある」
ユミナは今、大きな問題に巻き込まれているかもしれない。
心を傷つけられて、泣いているのかもしれない。
そう思うと、いてもたってもいられないのだけど……
ただ、こういう時こそ落ち着かなければいけない。
おじいちゃんも言っていた。
どうすればいいかわからなくなった時、闇雲に突撃するのではなくて、一度足を止めて、自分にできることを探すのだ……と。
こうも言っていた。
焦る心を無理に押さえつけるのではない。
焦ってしまう弱い自分をそのまま受け入れて、その上で、弱さをコントロールしてみせろ。
飲まれることなく、むしろ飲み込んでみせろ。
そうすれば、必ずや活路が開けるだろう。
「……よし」
おじいちゃんの言葉を思い出して、改めて落ち着くことができた。
今、おじいちゃんはいない。
アルティナとノドカの師匠として、俺が、代わりに二人を導かないとな。
ユミナのことは気になるが……
しかし、うろたえているわけにはいかない。
「まずは情報だ、いいな?」
「ええ」
「了解であります!」
そう、力強く声をかけたのがよかったのかもしれない。
アルティナとノドカは、いつもの様子に戻る。
そうして落ち着きを取り戻した二人と一緒に、俺は再び外に出た。
◇ お知らせ ◇
新作はじめました!『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』
→ https://book1.adouzi.eu.org/n8290ko/
ざまぁ×拳×無双系です。よろしければぜひ!




