144話 ぎこちないまたね
「んーーーっ、太陽が気持ちいい!」
洞窟の外に出ると、ユミナは笑顔で伸びをした。
アルティナとノドカも似たような反応をする。
数時間とはいえ、ゴブリンの巣になっていた洞窟に籠もっていたからな。
こうして地上に出られると、色々とスッキリするだろう。
「特に戦闘はなし……んー、ちょっと物足りないわね」
「アルティナ殿の気持ち、よくわかりますぞ。拙者の愛刀も、出番がないと嘆いていますからな」
「ノドカの物足りないは、ちょっと物騒な気がするわ……」
「まあまあ、これはこれでいいんじゃないかな?」
ユミナが笑顔で言う。
「本格的な戦闘はなかったけど、でも、それが一番だよ。誰も怪我しないで無事に戻る、それができたから、全てよし!」
「……それもそうね」
「で、ありますな!」
ユミナの笑顔がうつったかのように、アルティナとノドカも柔らかい表情になる。
この笑顔が、ユミナの一番の魅力なのかもしれないな。
「あとはエストランテに戻るだけだけど……その前に、軽く休憩をするか」
「師匠、休憩って?」
「戦闘はなかったが、探索というのはけっこう疲れるだろう? その疲労を即座に回復できるわけじゃないが……」
荷物袋から、とあるものを取り出した。
今朝、焼き上がったばかりのパンだ。
しっかりと梱包しておいたため、まだふわっとした感触が残っている。
たっぷりのバターを塗り……
それから、やはり、こぼれるくらいのたっぷりのいちごジャムを塗る。
わりと適当ではあるが、しかし、こういうのが意外と美味しいのである。
「ほら」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「こんなものを用意していたなんて……」
「ガイ師匠は、わりとマメでありますな」
手頃な倒木を椅子の代わりにして、並んで座る。
そして、いちごジャムサンドで休憩をとるのだった。
「あふぅ……美味しい、美味しいよぉ♪」
「バターたっぷり、っていうところがポイントね」
「あぅ……後のことを考えると、ちょっと恐ろしいサンドでありますが……くぅ! しかし、食べる手が止まらないのでありますよ!」
よかった。
いちごジャムサンドは好評らしく、三人はキラキラ笑顔になる。
三人は剣士なのだけど……
それ以前に女の子なのだろう。
こうして甘いものを食べている姿は、とてもよく似合う。
「はぁあああ……」
ふと、ユミナが感慨深そうに空を見上げた。
晴れやかな笑み。
でも、どこか寂しそうで……
「どうしたの、ユミナ?」
アルティナが問いかける。
いつの間にか呼び捨てに……愛称呼びになっていた。
「特にどうこう、っていうものはないんだけど……こうして、誰かとのんびりできる時間って大事だな、って」
「なによ、それ」
「誰か、と言われると、ちょっと距離を感じてしまうのでありますよ。拙者達、友達ではありませぬか」
「友達……なの?」
「「もちろん」」
女の子の友情はいつの間にか育まれるものらしい。
一緒に依頼を請けて。
一緒に活動して。
一緒におやつを食べて。
そうだな。
どこからどう見ても友達だな。
「……そっか。えへへ」
ユミナは嬉しそうに笑う。
ただ……
気のせいだろうか?
その笑顔の中に、なにかしら切ない感情が隠れているような気がしたのは?
――――――――――
「よし。それじゃあ、これがユミナの分だ」
エストランテに戻り。
ギルドに報告をして、報酬を受け取り。
外に出たところで、ユミナの分の報酬を彼女に渡す。
「ありがと、お兄ちゃん」
「この後はどうするんだ? よかったら……」
「えっと……あはは。それもいいかもね」
ユミナがなにを考えているのか。
なにを抱えているのか。
それはわからないけど、一緒にいた方がいいと思った。
だから、パーティーを組めば、と思ったのだけど……
「でも……やっぱり、お兄ちゃん達に迷惑はかけられないから」
「ユミナ?」
「だから……ばいばい」
ユミナは笑顔で。
ちょっと寂しそうな笑顔で。
手を軽く振り、一人、この場を立ち去る。
その背中は寂しそうで。
声をかけてほしそうで。
それでいて、拒絶めいた空気もあり……
「……ユミナ……」
俺は、それ以上は声をかけることができず、見送るしかなかった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
既存の作品を大幅に改稿して、リファイン版の新作を書いてみました。
『 娘に『パパうざい!』と追放された父親ですが、辺境でも全力で親ばかをします!』
https://book1.adouzi.eu.org/n3620km/
こちらも読んでいただけたら嬉しいです。




