141話 エルフの貴人
「それで?」
エストランテ。
貴族街にある屋敷の一室。
一人のエルフがいた。
中性的な顔立ちを持つ。
芸術的な美貌であり、女性をたちまち虜にしてしまうだろう。
顔だけではなくて、体もしっかりと鍛えられていた。
細身ではあるものの、無駄な肉はない。
しなやかな筋肉と柔軟なバネ。
それをしっかりと己のものにしている。
「それで?」
エルフは、もう一度、問いかけた。
その先には、膝をついて頭を下げる別の二人のエルフの姿が。
「そ、その……姫様がこの街にいることは確かなのですが」
「この街はそれなりに広く、人も多く、すぐに個人を特定することは……」
「……はぁ」
エルフの貴人はため息をこぼした。
それに反応して、部下らしきエルフ達がびくりと震える。
「まったく、役に立ちませんね。彼女をこの手にしなければいけない……これがどれだけ重要なことか、あなた達はちゃんと理解しているのですか?」
「そ、それはもちろん……」
「いいえ、理解していませんね。まったくもって理解していない。あぁ、嘆かわしい」
芝居じみた様子でエルフの貴人は憂いを見せた。
その動きをピタリと止めて。
刺すような視線を部下の二人に向ける。
「街が広いのなら、それを補えるだけの人を雇いなさい。人が多いというのなら、それが問題にならないくらいの目を得なさい」
「し、しかし、それだけのことをするとなると、相当な資金が……」
「だから、あなた達はバカなのですよ」
エルフの貴人は腰に下げていた細剣を抜いて、その切っ先を二人に向けた。
「彼女を手に入れれば、王族となることができる。うまくいけば、王の座を得ることも……それだけのリターンを得るために、投資を渋るバカはいないでしょう? わかりますか?」
「は、はい……」
「よろしい。では、すぐに行動に移るように。次、顔を見せる時は、彼女の居場所を掴んでいることを期待していますよ」
「わ、わかりました!」
部下のエルフ達は慌てて部屋を出た。
それを見送り、エルフの貴人はため息と共にソファーに腰を下ろす。
「まったく……使えない部下ですね。まあ、そんな愚図であろうと、役を与えてみせるのも王の役目ということか」
エルフの貴人は窓の外を見る。
その先にいるであろう女性のことを思い浮かべる。
「ユミナエル……絶対に、あなたを私のものにしてみせますよ。ふふふ」
――――――――――
「あ、お兄ちゃん! おはよう」
「「「……」」」
ユミナエルについての情報を集める。
そんな方針を立てて、翌日……冒険者ギルドに移動したのだけど。
そこで、さっそく彼女に遭遇した。
彼女は、特に隠れているわけでもなくて。
そして、俺達から逃げているわけでもなくて。
だから、こうしてあっさりと見つけることができたのだろう。
少し拍子抜けだ。
「アルティナさんとノドカさんも、おはよう!」
「え、ええ……おはよう」
「おはようでございます」
「お兄ちゃん達も依頼を請けに?」
「そう、だな」
「なら、一緒に請けない?」
「一緒に?」
そのような厄介な依頼があるんだろうか?
そう訝しむと、表情から俺の考えていることを察したらしく、ユミナは手を横に振る。
「あ、大変な依頼っていうわけじゃないよ? ただ単に、私がお兄ちゃん達と一緒に依頼を請けたいな、って」
「……ああ、それも悪くないか」
一緒に依頼を請ければ、色々と話もしやすいだろう。
そんな打算もあるのだけど……
久しぶりに彼女と一緒に剣を振るいたいとも、そう思った。
「やった、決まりだね!」
ユミナは喜び、その想いを表現するかのように抱きついてきた。
「「……っ……!?」」
なぜか弟子二人の表情が厳しくなる。
「がんばろうね、お兄ちゃん♪」
「むぅ……」
「くぅ……」
「えっと……みんな、な、仲良くな?」
なぜ、一触即発みたいな空気になっているのだろう……?
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい』
https://book1.adouzi.eu.org/n7980kj/
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