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135話 大剣使いの少女

「……あなただね? 人様の畑を荒らす、悪い子は」


 声のした方を見ると、人影が見えた。


 甲殻獣と同じように暗闇に紛れているため、よく見えない。

 ただ、武装していること。

 女の子であることは把握できた。


 ただ、背は低い。

 体も細い。


 はっきりと視認できないが、子供のような気がする。


「誰かしら、あの子?」

「もしかして迷子でありましょうか?」

「こんな時間に? それに子供っぽいけど、気配はベテランの冒険者みたいな……」

「むぅ……?」

「……ひとまず様子を見よう」


 女の子は、すでに甲殻獣と対峙していた。

 下手に声をかけて注意を逸らしたりしたくない。

 俺達に気をとられてしまい、その間に甲殻獣に……なんていう展開があるかもしれない。


「いくよ」


 幼くも凛々しい声が響いた。

 それと同時に雲が晴れて、わずかな月明かりから女の子の姿が照らされる。


 影を見てわかっていたのだけど、思っていた以上に背が低い。

 ノドカよりも下で、本当に子供のよう。

 年齢換算をしたら、12歳くらいだろうか?


 ただ、その身から放たれるオーラは子供のものとは思えないほど洗練されていて、そして、圧倒的だった。


 強く、強く、強く……

 それから、どこまでも鋭く研ぎ澄まされている。


 草原の自然を思わせるような、薄い緑色の髪。

 年齢関係なく、人を惹きつけるであろう白い肌。

 そして、ピンと尖る細長い耳。


 エルフだ。


「グモォ!!!」


 先に動いたのは甲殻獣だ。

 低い雄叫びを響かせつつ、エルフの女の子に突撃する。


「……」


 対するエルフの女の子は、あくまでも冷静だった。


 慌てることなく。

 動揺することなく。

 静かに体幹を調整しつつ、両手でとあるものを構えた。


 剣だ。


 ただの剣ではない。

 自分の身の丈ほどもある、巨大な大剣だ。

 小さなエルフの女の子がそんなものを構えているなんて、冗談みたいな光景だった。


 エルフの女の子は、横にステップを踏んで甲殻獣の突撃を回避した。

 ダンスを踊っているかのような華麗な動きだ。


「えいっ!」


 ほぼ同時に、大剣を振り下ろす。


 とても重く。

 それだけではなくて、あれだけの大きさになるとうまく操ることができず、まともに振ることでさえ難しいはずなのに。


 エルフの女の子は、己の体の一部のように、完璧に振り切ってみせた。

 とても綺麗な剣筋だ。


 エルフの女の子の大剣は、巨人が振り下ろした鉄槌のよう。

 甲殻獣が抗うことはできず、外殻ごと首を両断されてしまう。


「……ふぅ」


 甲殻獣が倒れて、完全に沈黙したところで、エルフの女の子は小さな吐息をこぼした。


 大剣を振り、刃についた血を払い……

 そして、なんてことのないように背負う。


「「「……」」」


 あまりにも予想外の光景に驚いた俺達は、言葉が出てこない。


 見た目通りではなくて、只者ではないと思ってはいたが……

 まさか、これほどの実力の持ち主だったなんて。


 子供らしからぬ力もそうだけど……

 なによりも、あれほど巨大な大剣を操る技術がすさまじい。


「……ねえ、師匠。師匠があの剣を使ったら、どうなる? なんとかなっちゃう?」

「いや、さすがに無理だな。力で強引に振るうことはできるだろうが、あそこまで綺麗に扱うのは、まず不可能だ」

「ガイ師匠でも無理なのでありますか……」

「師匠にできないことって、あったのね……」

「そりゃ、俺も人間だからな。無理なものは無理だ」


 鍛錬を重ねれば、いけないことはないと思うが……

 おそらく、年単位の鍛錬が必要になるだろう。


 あれは、それほどまでに高い技術が求められるものだ。


「ねえ……師匠、どうするの?」

「拙者達の獲物、奪われてしまったでござるが……」

「……そうだな」


 どうしようか?


 迷い、考えていると、


「誰!?」


 先にエルフの女の子の方が俺達に気づいた。

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