133話 遠い日
「ねえねえ、お兄ちゃん」
小さな女の子がにっこりと笑っていた。
とても可愛いと思うのだけど……
でも、なぜか顔はよくわからない。
モヤがかかったような感じで、ハッキリと見ることができなかった。
「お兄ちゃんは、どうして、毎日剣を振っているの?」
「ほうほう……強くなりたいから? 剣の道を極めたいから?」
「うーん……私には、ちょっとよくわからないかも」
「あ、でもでも、私も剣を学べばわかるかな?」
「よーし! 私、絶対、強くなってみせるね! その時は……」
――――――――――
「……ん?」
パチリと目を開けると、最近になって見慣れてきた我が家の天井が見えた。
体を起こすと、いつもの自分の部屋。
「……夢か」
懐かしい夢を見たな。
あの子は元気にしているだろうか?
――――――――――
「師匠、今日はどんな依頼を請ける?」
「自分は、甘味食べ放題ツアーがいいと思うのでありますよ!」
「依頼って言ったでしょ!」
「あいたー!?」
今日もアルティナとノドカは元気だ。
うん。
元気が一番。
このまま健やかに育ってほしい。
「あっ、みなさん。こんにちは」
ギルドを訪ねると、リリーナが笑顔で迎えてくれた。
ここ最近は、彼女が俺達、専属の受付嬢になりつつある。
特に指命しているわけではないのだけど、いつも彼女が迎えてくれる。
なぜだろう?
「今日も依頼を?」
「ああ。なにか、良い依頼はないだろうか?」
「うーん、そうですねえ……」
リリーナは、手元の書類をパラパラとめくる。
とある一点で手を止めた。
「こちらの依頼なんていかがでしょう?」
「畑を荒らす害獣の駆除か」
「む? 魔物でないでござるか? 拙者、魔物と血肉湧き踊るような戦いがしたいでありますよ」
「ノドカって、時々、バトルジャンキーになるわよね……」
「それが拙者であります故に!」
なぜ、誇らしげなのだろうか?
剣の道を志すというのは、とても素晴らしいことだと思うのだが……
まだ若い女性なのだから、戦闘ばかりに気を取られないでほしい、とも思う。
師匠というよりは、親みたいだな。
「ん? この依頼、発行日がかなり前になっているが」
「その……けっこう前に持ち込まれたものなんですが、誰も達成できず」
「誰も? 請けられていない、というわけではなくて?」
「はい。いくつかの方が請けたのですが、いずれも失敗して……依頼内容、報酬を考えると、思っている以上に難しいらしく、請ける人もいなくなり……ギルドとしても、このまま情けないところは見せておくわけにはいかず。ぜひ、ガイさん達に解決していただければ、と!」
「ふむ」
害獣駆除が簡単とは言わないが、様々な知識と力を持つ冒険者ならば、それほど苦戦することはないだろう。
それなのに、何人も失敗してしまう。
少し気になる依頼だな。
「ちょっと。そんな依頼、どこがオススメなのよ?」
「依頼主も困っているらしく、つい先日、報酬が引き上げられたんですよ」
見ると、元の報酬に横線が二つ引かれていた。
その上に、新しい報酬額が記載されている。
倍近い額になっていた。
「へぇ、これなら確かに美味しいかも」
「美味しい!? なにか珍品があるのですか?!」
「ノドカは黙っていて」
「はい……」
しゅん、と怒られた猫のようになるノドカ。
「師匠、これ、請けてもいいんじゃないかしら?」
「そうだな。請けてみるか」
「はい、ありがとうございます! では、さっそく手続きをいたしますね」
こうして、俺達は害獣駆除の依頼を請けることになった。
……とても気軽な気持ちで受けたのだけど。
この時は、まさか、あれほどの大きな騒動に巻き込まれるなんて、つゆほども思っていなかったのだった。
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