132話 弟子と弟子
「「……」」
新居の道場にて。
アルティナとノドカが、木剣を手に対峙する。
空気が張り詰めていた。
まるで、迫りくる嵐を目の前にしているかのよう。
ただ、俺は気にせず、二人をじっと見守る。
「せぇいっ!!!」
先にアルティナが動いた。
前に出ると同時に、姿勢を低く落とす。
そのまま木剣を振り、ノドカの足を狙う。
ノドカは慌てることなく、一歩、後ろに下がる。
アルティナの攻撃を避けて……
しかし、カウンターに移ることはない。
適切な距離を見極めて、間を取り続けた。
カウンターをしかけても、それが成功するとは限らない。
まともにヒットしなければ意味がない。
時に、あえてカウンターを誘う相手もいる。
下手な攻撃を繰り返して、カウンターをしてきたところを狙い、一気に叩く。
先の先を読む戦術だ。
アルティナにはそういう意図はないようだけど……
ノドカはそれを警戒している様子で、確実なヒットを与えられるタイミングを図っている様子だった。
ただ……
さすがに様子見しすぎだな。
「ふぅ! はっ!」
「っ……!」
アルティナの素早い連撃。
ノドカは避けることができず、回避から防御に切り替えた。
しかし、アルティナの攻撃は強烈だ。
木剣とはいえ、鉄製の盾を凹ませるほどの威力がある。
何度も何度も攻撃を受けていると、その衝撃が手に伝わり、痺れてしまう。
ノドカは次第に苦しそうな表情に。
それを見たアルティナは、さらに攻撃を加速させて……
「ちぇえええええいっ!!!」
「なっ……!?」
勝てる、と思ったのかもしれない。
アルティナにできた一瞬の隙。
それを見逃すことなく、ノドカは渾身の一撃を放つ。
全身のバネを使い、木剣の先まで一体となり。
強烈な突きだ。
速く、鋭く。
獲物に食らいつく獣のよう。
ただ……
「待っていたわ!」
「えっ」
アルティナは、ノドカの行動を読んでいた。
適当なカウンターなんて待っていない。
ここぞとばかりに繰り出してくるであろう、渾身の一撃を待っていたのだ。
アルティナは上半身を傾けた。
未来が見えているかのようで、ノドカの突きを避ける……ただ、かする。
超高速の突きだ。
かすっただけでも相当な衝撃があるだろう。
アルティナは、一瞬、顔をしかめるものの、痛みなどは無視。
そのまま強引に体を動かして、木剣を振るい……
「そこまで!」
「「っ……!?」」
二人の間に割り込んで、互いの攻撃を手で掴んで止めた。
「えっ、嘘……!? あたしのカウンターに対するカウンター……ものすごく自信のある一撃だったのに、それをあっさりと……」
「というか、拙者の突きまで……す、素手で……?」
「二人共、なにを驚いているんだ? 模擬戦とはいえ、二人は強いから、いざという時は止めに入ると言っていただろう?」
「そ、そうだけど……その方法が無茶すぎない? というか、動きが見えなかったんだけど……」
「うー……拙者、それなりに強くなったかな? なんて思っていましたが、ガイ師匠に追いつくのはまだまだ先でござるな……」
「なに、そんな落ち込む必要はない。二人共、確実に強くなっている」
「「……」」
アルティナとノドカは、どんよりした目をこちらに向けてきた。
「あたし達の勝負の間にあっさりと割り込んで、素手で二人の攻撃を止めて……」
「けろっとしているガイ師匠に言われても、とてもではありませぬが自信は持てぬでござるよ……」
「いや、本当に」
世辞や慰めで言っているわけではない。
そもそも、そういうものは苦手だ。
「アルティナは、戦術の組み立てが見事だった。相手の渾身のカウンターを誘う……大胆でリスクは高いものの、ハマればこれ以上効果的なものはない。そこに至るように、細かい動きで誘導していたのも見事だ」
「えへへ」
「かといって、ノドカも落ち込む必要はないぞ。アルティナの戦術にハマってしまったものの、模擬戦に負けたのは運に近いな。全ての攻撃が鋭く、アルティナの予想を上回っていたと思う。対処を一つでも間違えたら、ノドカの剣が先に届いていただろう」
「にへー」
それぞれの感想を述べて、動きについてなど指摘すると、二人は嬉しそうな顔に。
……などなど。
新居を構えた後は、このような感じで、日々を鍛錬に費やしつつ、のんびりとした日々を過ごしていた。
大きな問題が起きることはなく、落ち着いた時間を過ごせている。
できれば、このような日々が続いてほしいのだけど……
さて、どうなることやら。
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