127話 やり直せないことはない
物置を改装した牢にゼクスは囚われていた。
といっても、鎖などで拘束されているということはない。
頑丈な牢の中にいるものの、体は自由だ。
牢も設備が整っていて、宿のよう。
豪華というわけではないが、普通に過ごす分には問題はないだろう。
「……」
ゼクスはベッドに座り、黙り込んでいた。
じっと床を見ている。
「怪我はもういいのか?」
「……」
こちらに気づいていない、ということはないだろう。
単純に無視されているみたいだ。
構わず声をかける。
「封魔剣を使うと、肉体に反動が出るらしいからな。心配していたんだ」
「……」
「ただ、見た感じ、そこまでの怪我はなさそうだな。なによりだ」
「……」
「なにか不自由はないか? 待遇の改善は約束できないが、ギルドマスターなどにかけあうことはできる。なにかあれば言ってほしい」
「……」
やはり返事はない。
ふむ?
こちらの声は聞こえているはずなのだけど……
「あなた、失礼ではなくて?」
セリスが苛立った様子で言う。
「ガイ様は、あなたのことを気にかけているのですよ? それなのに、そのような態度……やはり、封魔剣を持ち出すような犯罪者は、信用なりませんわね」
「……っ……」
『犯罪者』という言葉に反応して、ゼクスがぴくりと震えた。
目を伏せる。
その姿は悲しそうで、寂しそうで……
「セリス、その辺で」
「しかし、ガイ様……!」
「俺のことを気にかけてくれるのは嬉しい。ただ……彼は彼で、今回のことを悔いて、反省しているさ」
「そうでしょうか? わたくしには、そのようには見えませんが……」
「少し不器用なだけさ。あと、今はショックを受けているだろうから、その影響もあるかもしれないな」
できれば話を聞きたい。
そう無理を言ってここにやってきたのだけど、この様子では難しそうだ。
地下を後にしようとして……
「……どうして」
ゼクスが小さく口を開いた。
「どうして、あんたは……そんなに優しいんだ?」
ゼクスは、今にも泣き出しそうな顔で言う。
訳がわからないと、そう言うかのように問いかけてくる。
「俺は、俺は……もっと強くなりたかった。あんたなんかに負けないくらい活躍をして、もっともっと……それで、封魔剣に手を出して……」
「そうか」
「同情の余地なんてない。厳罰が当たり前だ……あんたにも迷惑をかけた。それなのに、なんで……」
「キミは、もう反省しているだろう?」
「……っ……」
「ならば、今以上の言葉は必要ない。言葉で鞭打つことに意味はない。きちんと反省しているのなら、それでいい」
「あんたは……」
ゼクスの顔がくしゃりと歪む。
彼はゆっくりと立ち上がり……
しかし、膝から崩れ落ちてしまう。
「反省しても……意味なんてねえよ。もう、俺は終わりだ……どうしようもない」
「そんなことはない」
「え……?」
ゼクスは、確かに重い罰を受けるだろう。
反省しているから終わり、ということにはならない。
でも、これで全てが終わりと考えなくていいはずだ。
「強くなりたいんだろう? なら、強くなればいい。今度は間違えないように」
「だ、だけど俺は、取り返しのつかないことを……」
「でも、キミはまだ生きている」
「……っ……」
ゼクスが震えた。
「取り返しのつかないことはある。一からのスタートというわけにはいかないだろう。マイナスからのスタートになるだろう。でも……また歩くことはできる」
人は、やり直すことができるはずだ。
歩みを再開することができるはずだ。
辛い道のりかもしれない。
でも、足を止めてしまうよりはいい。
一から……いや。
マイナスからのスタートになるだろう。
その先もうまくいくとは限らず、困難ばかりが待ち受けているかもしれない。
それでも。
なにもかも諦めてしまうよりはいい。
「キミはまだ生きている。なら、もう少しがんばって生きてみないか? 辛い道のりかもしれないが、それだけではないはずだ。きっといいこともある。そして、未来が見えてくるかもしれない」
「それ、は……」
「俺は、キミに諦めてほしくない。がんばってほしい……どうだろう?」
「うっ、くぅ……」
ゼクスは涙をこぼす。
それは止まらず、ぽろぽろと流れていき……
「うあああああぁーーー!!!」
GAノベル様より、書籍1巻が発売中です!
コミカライズ企画も進行中。
よろしくお願いします!
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
新連載です。
『悪魔と花嫁に祝福を~初心者狩りに遭った冒険者だけど、悪魔に一目惚れされて溺愛されることになりました~』
https://book1.adouzi.eu.org/n8526kd/
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。




