１２５話　断てぬものなし

　力で魔族を押していく。

　手数で魔族を押していく。

　ヤツに反撃の間を与えるな。

　防御もさせるな。

　回避もさせるな。

　ここで倒してみせる。

　その決意を乗せて、一撃一撃、繰り出していく。

　全力の一撃を何度も何度も、繰り返し放つ。

　このようなことをすれば、普通は痛烈なカウンターを食らうのだけど……

「あたし達を忘れてもらったら困るわね！」

「押し通るでござるよ！」

　危なくなると、アルティナとノドカがサポートに入ってくれていた。

　魔族の攻撃を代わりに防いでくれて、さらに、牽制の一撃も放つ。

　おかげで、俺は攻撃だけに専念することができた。

「これで……」

　剣を振る。

　何度も何度も何度も、剣撃を放つ。

　放ち続ける。

　嵐のような猛攻を繰り出していくと、次第に、魔族の動きに綻びが生じてきた。

　ぎこちなさと鈍さ。

　その二つを見せるようになって、先が読みやすくなる。

　だから俺は……

　いや。

　俺達は勝利を確信した。

「師匠！」

「ガイ師匠！」

　アルティナとノドカが時間差で攻撃を繰り出した。

　それは痛烈な一撃となり、魔族を打つ。

　軽いダメージ。

　致命傷には遠い。

　しかし、大きくバランスを崩して、膝をついていた。

　二人が作ってくれたチャンス……絶対に無駄にしない！

「終わりだっ！！！」

　矢を引き絞るように剣を構えて。

　そのまま、体ごとぶつかるようにして突撃。

　ザンッ！！！

「……！？！？！？」

　刃が魔族の腹部を貫いた。

　アイスコフィンの刀身がヤツの背中から生える。

「おおおおおぉっ！！！」

　その状態で俺は剣の柄に力を入れて……

　そのまま上に振り上げた。

「……」

　腹部から右肩の辺りを斬り裂かれて。

　魔族は、ぐらりとよろめいて……

　そのまま、糸が切れた操り人形のように、パタリと倒れた。

　漆黒の体が灰色に。

　燃え尽きた炭のようになって、風に吹かれて散る。

　最後は呆気ないもので……

　どこか寂しく、虚しく感じた。

――――――――――

「……さきほど、報告を受けた。確かに魔族だったようだ」

　場所は、セリスの屋敷。

　俺とアルティナとノドカ。

　それと、セリスとギルドマスター。

　当事者と、一部の限られた者だけで会議が開かれていた。

「話を聞いた時は、己の耳を疑ったが……まさか、本当に魔族が現れるとは」

「ガイ様達がいなければ、どうなっていたことか……改めて、感謝を申しあげます」

「いや……それよりも、ゼクスは？」

　封魔剣を盗み出したと思われるゼクスは、まだ生きていた。

　魔族の解放に手を貸したようなものだけど、しかし、見殺しにするわけにもいかない。

　あの後、ギルドなどに報告をして手を貸してもらい、治療することになったのだけど……

「今は、わたくしの屋敷の一室で治療を受けています。報告によれば、傷などは深いものの、命に別状はないと」

「そうか、よかった」

「ふふ。ガイ様は優しいのですね」

「そうだろうか？」

「そうよ。まったく、師匠はお人好しなんだから。あんなことをしでかしたヤツも助けちゃうなんて」

「でもでも、それがガイ師匠の素敵なところなのでありますよ！」

「ま、それもそうね」

　みんなで笑う。

　ただ、次の話題に移るとすぐに笑顔は消えた。

「さて……今回の件だが」

　ギルドマスターは硬い表情で言う。

「功労者達には、それに見合った報酬を出させてもらう。ただ……魔族に関しては、決して口外しないでもらいたい。むしろ、忘れてほしい」