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120話 生誕

「な、なによ、あれ……?」

「拙者は、幻を見ているのでありますか……?」


 残された剣は、使い手がいないにも関わらず、自立する。


 ふわりと浮き上がり。

 ピタリと宙で固定されて。


 そして、禍々しさを感じる波動を放つ。


 ドクン、という鼓動のような音。

 同時に、剣にピシリとヒビが入る。


 そのヒビはすぐに全体に広がり……

 剣が粉々に砕け散る。


「くっ……!」


 慌ててアルティナとノドカを背中にかばう。


 ただ、剣の破片が飛んでくることはない。


 警戒しつつ視線を戻すと……

 そこには、信じられないものが存在していた。


「……」


 マネキンのような、とてもシンプルな体。

 目と鼻はない。

 髪もない。


 ただ、横に伸びた、裂けるような口があった。

 槍のように鋭い歯が並んでいる。


 それと、手足に長く伸びた爪。

 こちらも武具のように鋭く、触れるだけで肉が簡単に裂けてしまうだろう。


 闇を凝縮したかのような漆黒の体。

 空を支配するための翼。


「魔族……なのか?」


 伝説と思われる存在が、そこにいた。




――――――――――




 魔族。

 それは、遥か昔に滅びた種族だ。


 人間の……いや。

 魔物を除く、ほとんどの生き物の天敵だ。


 血を求めて破壊を繰り返して。

 平和と秩序を壊すために、やはり破壊を繰り返して。

 その本質は、我を忘れた獣のようなものだ。


 全てのものに噛みついて。

 己以外のもの、全てを敵と定める。


 そこまで破壊衝動が強い生物は、他に見たことがない。

 魔物でさえ、ここまで滅茶苦茶に暴れることはないだろう。


 魔物は、他者を喰らうことを目的として暴れる。

 それは自分の命を繋ぐため。


 しかし、魔族は違う。


 自己と違う者の存在を許さない。

 だから壊す。

 壊すことを目的として壊す……あまりにも酷く、理解できない理由だ。


 故に、全ての生き物の天敵と言われている。


「……」


 魔族は静かに佇んでいた。

 ピクリとも動かない。


 ただ、その身から放たれるオーラはすさまじい。

 直接、剣で斬りつけられているかのように圧倒的で……

 この場に一般人がいたら、魔族のオーラを浴びただけで気絶してしまうかもしれない。


「なんで……こんなところに魔族が……」

「うぅ……て、手が震えてしまうのでありますよ」


 アルティナとノドカは顔を青くしていた。


 無理もない。

 正直、俺も……恐ろしいと思っている。


 本能的な恐怖を感じていた。

 対峙しているだけで、ゴリゴリと心が削られていきそうだ。


「封魔剣が壊れたから、だろうな」


 名前の通り、魔を封じる剣だ。

 それが壊れたため、中に封じられていた魔族が開放された。


 今にして思えば、ゼクスは魔族に操られていたのだろう。


 どのような経緯か、そこはわからないものの、ゼクスは封魔剣を手に入れた。

 しかし、魔族に操られてしまい、次々と人を斬るようになって……


 それこそが魔族の目的なのだろう。

 人を斬り、魔力を集めて。

 同時に、剣を破壊するための方法を模索していた。


 そこにタイミングよく俺達がやってきて……


「くそっ」


 大失敗だ。

 これじゃあ、魔族の復活に手を貸したようなものじゃないか。


「……アルティナ、ノドカ。二人はギルドに行って、応援を呼んできてほしい」

「えっ? で、でも、師匠は……」

「俺は、こいつと戦う」


 剣を構えた。


「む、無茶でありますよ!? 相手は魔族。たった一人なんて……」

「そ、そうよ! あたし達も一緒に……」

「ダメだ」


 二人の顔を見ることなく、一緒に戦うことを拒む。


 顔を合わせづらいというのもあるのだけど……

 それ以上に、今は、魔族から一瞬たりとも目を離せなかった。


 目を離した瞬間を狙い、襲いかかってくるかもしれない。

 そんな危機感を抱いていた。


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