119話 覚悟を決めて
「ガッ……!」
短く叫び、ゼクスが突撃してきた。
今度は、それほど速くない?
不思議に思いつつ、相手の動きに合わせて剣を……
いや、待て。
「ガ……アアアアアァアアアッ!!!」
「くっ!?」
数メートルほど離れたところで、ゼクスは剣を振り上げて、思い切り地面に叩きつけた。
ぶわっと衝撃波が広がる。
石畳が割れて、土煙が舞い上がる。
狙いはこれか!
「あぅ!?」
「アルティナ殿!」
後ろから悲鳴。
ゼクスは、俺ではなくてアルティナに襲いかかっていた。
アルティナはどうにか攻撃を受け止めたものの、体勢を大きく崩してしまっている。
慌ててノドカが割って入り、ゼクスを追い払おうとするが……
ゼクスは下がらない。
さらに前に出て、ノドカも食らってみせる、という感じで苛烈な攻撃を繰り出す。
「くぅ……!?」
ノドカはかろうじて防いでいたが、長くは保たなそうだ。
表情は険しく、一撃を受ける度に歪んでいく。
「ノドカ!」
急いで移動して、ゼクスを背後から斬りつけた。
卑怯だとか、そんなことは言っていられない。
これはもう、命を賭けた『殺し合い』なのだ。
「グゥ……!」
ゼクスは傷に怯むことなく、大きく跳躍した。
建物の上に移動して……しかし、逃げることはない。
軽く動きつつ、俺達の隙を探る。
俺達三人を獲物と定めたようだ。
それを狩ることが最優先。
逃げることはまったく考えていない。
「厄介だな」
覚悟を決めた者ほど手強い。
そして……その剣は、大きな力を得る。
ならば俺も覚悟を決めよう。
アルティナとノドカを守るため。
そして、この街の平和を守るため。
ゼクスを……斬る。
「ウゥ」
俺の覚悟を感じたらしく、ゼクスの視線が、今度こそ俺に固定された。
アルティナとノドカも獲物のうち。
しかし、それ以上に俺を相手にしなければならない。
無視するようなことをすれば、痛烈な一撃を食らうと理解したのだろう。
「……」
「……」
互いに剣を構えた。
沈黙。
交わす言葉はない。
想いも必要ない。
あるのは、意思だ。
「……ッ!!!」
先に動いたのはゼクスだ。
屋根を蹴り、鳥が強襲するかのように、上から突撃してきた。
速い。
鋭い。
そして……重い。
ありったけの力が込められていることが見てわかる。
まともに受け止めようとすれば、アイスコフィンでさえ砕かれてしまうかもしれない。
しかし、避けるわけにはいかない。
後ろにはアルティナとノドカがいるのだ。
二人の師匠として。
そして、一人の大人として。
俺は、彼女達を守らないといけない。
「はぁっ!!!」
気合を迸らせつつ、迎撃の一撃を放つ。
下から上に。
弧を描くように剣を振る。
俺の剣。
ゼクスの剣。
それらが交差して……
「ガッ……!?」
剣が夜空に放り出された。
続けて、ゼクスも倒れた。
「やった……やったわ、師匠! さすがね!」
「ガイ師匠の一撃はともかく、相手の攻撃もよく見えず……むぅ。拙者、まだまだ修行不足でありますな」
「……二人共、動くな」
アルティナとノドカは、はしゃいでいるものの、俺は、まだ剣を構えていた。
鞘に収めることはない。
ゼクスは地面に倒れたまま、ぴくりとも動かない。
気絶しているのか。
あるいは……
一方、地面に落ちた剣に変化があった。
剣の暗い輝きが増していく。
まるで生気と魔力を吸い取っているかのように……




