117話 囮作戦
「囮をしようと思うのでありますよ!」
数日後。
ギルドの客間で、セリスとギルドマスターとプレシアを交えた会議。
捜査に進展はなく、行き詰まっていたところで、ノドカがそんなことを言い出した。
「囮……ですか?」
「犯人の尻尾は掴めず、しかし、事件は増えていく一方であります。なればこそ、これ以上の被害を防ぐため、次なる一手を打つべきであります!」
こんな話、事前に相談されていない。
この場の思いつきか、密かに温めていたアイディアか。
どちらにしても、ノドカの熱量は相当なものだ。
事件を絶対に止めてみせる! という強い意気込みを感じる。
「ふむ……いいかもしれないな」
「ギルドマスターよ、それは……」
「もちろん、危険は承知の上だ。しかし、他に手がないのも事実。もちろん、他に良案があるのならば受け付けるが」
ギルドマスターの問いかけに答えられる者はいない。
そのような良案があるのなら、すでに出しているからだ。
「むぅ……苦い案ではあるが、しかし、それしかないのかのう」
「それは、可能なのでしょうか?」
「……可能といえば可能だろうな」
今までの被害者に統一感はなくて、バラバラだ。
幼い子供が殺されたこともあれば、老人が殺されたこともある。
無差別な犯行。
ただ、夜に犯行が行われているというところは変わらない。
一般人の夜間の外出を禁止。
その上で、囮を複数ばらまけば……
たぶん、犯人は食いついてくるだろう。
「ただ、問題はその後だ」
「と、いいますと?」
「犯人を返り討ちとまではいかなくても、他から応援がやってくるまでの間、持ち堪えられるくらいでないと」
「ああ。囮は、冒険者か騎士でないとダメだな」
「しかも、成り立てのようなひよっこでは困るのう。すぐにやられてしまうじゃろう」
「ランクの高い者を囮に使う……か」
敵の正体は不明。
冒険者も被害に遭っていることから、相当な手練れであると考えられるのだけど……
しかし、その攻撃方法や戦術は一切不明。
囮になるため、一人で行動しないといけない。
危険極まりない任務だ。
高額な報酬を設定したとしても、立候補する者は現れるかどうか。
「自分がやるでありますよ!」
ノドカが元気に立候補した。
……だと思った。
苦笑する。
「もちろん、あたしもやるわ」
続いて、アルティナも立候補した。
二人に怯えの色はなくて、代わりに、強い信念のようなものが伺えた。
「剣を悪に使うなど、許せない行為なのでありますよ!」
「ノドカの言う通りね。それに、剣聖の称号を授かる者として、これ以上の暴挙は見逃せないわ」
「と、いうわけだから……立候補は三人だ」
「それは……」
「俺も立候補しよう」
弟子達に任せて、師匠がなにもしないわけにはいかない。
それに、想いは二人と同じだ。
これ以上、犠牲者を出したくない。
剣を汚させたくない。
――――――――――
その後、詳細が詰められて。
すぐに準備が行われて。
夜。
作戦を決行することとなった。
ノドカはともかく、アルティナはかなりの有名人だ。
そんな相手をわざわざ狙うだろうか?
そんな疑問があったため、変装をしてもらっている。
特殊な薬剤で髪の色を染めて。
髪型も変えて、服装もガラッと方向性を百八十度変える。
原型を留めないくらいの他人になっていた。
ノドカも、一応、変装をしておいた。
目立つ服装は止めて、どこにでもいるような町娘のものへ。
それと、メガネをかけておいた。
これで立派(?)な町娘だ。
二人は談笑しつつ、人気のない路地を歩いている。
一人なら怖い場所だけど二人なら平気だろう……という、少々、危機意識の薄い町娘を演じてもらっている。
アルティナはうまく演じられていると思うのだけど……
ノドカは、ややが動きや口調がぎこちない。
時折、ちらちらっと周囲に視線もやっていた。
……演技は苦手のようだ。
うまくいくことを願いつつ、俺は、いつでも動けるようにしつつ、影から様子を見守る。
――――――――――
作戦開始から一時間。
特になにも起きていない。
夜。
二人でいるとはいえ、町娘が暗い道を歩き回る。
さすがに怪しいから、今日はここまでだろうな。
そう判断して、二人に撤退の合図を……
「……っ……」
合図を出そうとしたところで、ソレに気づいた。




