114話 負けたくない
ゼクスは天才だ。
乾いた布が水を吸収するように。
武芸、文学。
分野を問わず、軽く触れただけで簡単に多くの物事を学ぶことができた。
その分野の内容を身につけることができた。
皆が彼を讃えた。
皆が彼に憧れた。
将来が期待される中、ゼクスは冒険者の道を歩くことにした。
物語に出てくるような英雄になりたい。
そして、数々の偉業を成し遂げたい。
天才である自分ならば、それが可能なはずだ。
やや増長している様子はあったものの……
それでも、ゼクスは歪むことなく育ち、強くなり、冒険者となった。
人々のために戦う。
そして、偉業を成し遂げてみせる。
新しい英雄となる。
そんな野望を胸に、ゼクスは冒険者としての活動を始めた。
そして、拍子抜けした。
冒険者は、常に危険と隣り合わせ。
最低ランクだとしても、時に、命を落とすことがある。
そう聞いていたのだけど……
なんてぬるいのだろう。
なんて簡単なのだろう。
依頼なんて簡単に達成できる。
魔物に襲われたとしても、問題なく撃退できた。
簡単すぎる。
なにも問題はない。
ゼクスは次々に依頼を請けて、その全てを解決した。
ランクも順調に上がる。
これなら英雄になるのも、そう遠い未来ではないだろう。
偉業も打ち立てて、その記録を更新できるかもしれない。
自分の未来に待っているのは、輝かしい栄光だ。
その全てをこの手に掴むことができるだろう。
……そう信じて疑っていなかった。
犯罪組織の壊滅。
そんな依頼を受けることになった。
よくある依頼だ。
他にもたくさんの冒険者が集められていた。
中には、おっさんがいた。
ゼクスは笑う。
おいおい、おっさんになにができる?
あまりにも場違いすぎるだろう。
薬草採取がお似合いだ。
現実の見えていない、どうしようもない冒険者だな、と侮っていた。
……ただ、本当に現実が見えていないのはゼクスだった。
犯罪組織のボスは、今までに見たこともないような実力者で。
手も足も出ず、負けて。
代わりに、侮っていたおっさんがボスを倒した。
逆に、おっさんがボスを圧倒していた。
どういうことだ?
訳がわからない。
天才である俺が、ただのおっさん以下だというのか?
ゼクスは、初めての挫折を味わい……
そのプライドは粉々に打ち砕かれた。
ここで終わるか?
このまま諦めるか?
否。
それだけは受け入れるわけにはいかない。
ゼクスが敵わなかったボスを倒した、謎のおっさん。
おっさんを超えたい。
倒したい。
そして、改めて自分の力を証明した。
負けたくない。
負けたくない。
負けたくない。
だから……
ゼクスは、迷うことなく禁忌に触れることにした。
だいたい落ち着いてきたので、今日から通常更新に戻します。
ご迷惑をおかけしました><




