112話 刹那の決着
「次は、俺が相手をしよう」
構えを取ると、組織のボスは感心したように笑みを浮かべた。
「強いな、てめぇ」
「そうだろうか?」
「ああ、ここにいる誰よりも……そうか。さっきから、化け物と対峙してるかのような気配を感じていたが、てめぇが原因だったのか」
人を化け物呼ばわりしないでほしい。
ノドカ。
うんうんと同意しないでくれるかな?
「一応聞いておくが、俺の部下になる気は?」
「ない」
悪人の手先になれば、そこで俺は剣士ではなくなってしまう。
それはもう、ただの外道だ。
「そうか、残念だな」
組織のボスは苦笑して、
「なら死ね」
一転して鋭い表情になると、風のような速度で踏み込んできた。
速い。
おそらく、今まで力を温存していたのだろう。
これが彼の本気というわけか。
ゼクスではなくて、俺に本気を出した。
それは気まぐれではなくて、こちらの力を認めてくれた、ということなのだろう。
犯罪組織が相手でなければ素直に喜んでいたが……
さて。
敵は、どう動く?
「へぇ、さすがにやるな」
猛攻を防ぎきると、組織のボスは不敵に笑う。
闘争を楽しむタイプだろうか?
強くなることを嬉しく思う。
その気持ちはわからなくはないのだけど、しかし、努力を重ねて磨いてきた剣の腕を悪に使おうなんて思わない。
こいつは剣を穢しているだけ。
悪事を働くだけではなくて……
剣の腕を悪用することも許せない。
「どうだ? やっぱり、俺の部下にならねえか? 今なら……」
「黙れ」
「……っ……」
「終わりにさせてもらう」
「はっ……生意気言うな、おっさんごときが!」
組織のボスは獣のように吠えて、勢いよく斬りかかってきた。
その太刀筋は鋭く速く、そして正確だ。
ゼクスも強いが、彼よりも数段上の位置にいる。
それだけに、せっかくの剣を悪事に利用していることが悲しい。
「俺の邪魔をするなっ、死ねよ!」
必殺の一撃なのだろう。
今まで以上に鋭い斬撃が繰り出されてきた。
周囲の冒険者達がざわついた。
ノドカも危ないを叫んでいる。
ただ……
「言っただろう……終わりにさせてもらう、と」
「がっ……!?」
横を通り抜けるようにして前に出て。
それと同時に、組織のボスが白目を剥いて倒れた。
「「「……」」」
冒険者達は呆然としている。
それは、ノドカやゼクスも同じだった。
「えっと……ガイ師匠。今、なにをしたのでありますか?」
ややあって、そっとノドカが問いかけてきた。
「なにを、というのは?」
「ガイ師匠がそいつの攻撃を避けて前に出て……気がついたら、相手が倒れていて。拙者、なにがなんだかわからないでござるよ」
「ふむ」
さほど難しいことをしたわけじゃない。
ノドカがいうように、まずは攻撃を避けた。
無防備になったところに、剣の腹を叩きつける。
刃を立てないのは慈悲ではなくて、捕まえて色々な情報を聞き出したいからだ。
「え? いえ、あの……剣をふるったようには見えなかったのでありますが」
「そう、なのか? 俺としては、普通にしたつもりなのだが……」
「……つまり、ガイ師匠のカウンターは神速の技? 敵は元より、味方でもその全てを見切ることはできないという……す、すさまじいでありますな! 拙者、改めて感服いたしましたぞ!」
「さすがだな、英雄!」
「俺は、あんたならやってくれると思っていたぜ、英雄!」
「英雄はやめてくれ……」
褒め殺しだろうか?
「……」
一方で、ゼクスは暗い顔を作る。
辛そうな、悔しそうな。
拳を強く握りしめていた。




