108話 豪語するだけのことはある
歓楽街にある娼館。
そこが、ウロボロスのアジトの一つだ。
普段は女性を売るようなことをしているのだけど……
それは表の顔。
裏では、さらった女性は地下に閉じ込めて、言葉にできないようなことを繰り返して、そして、人身売買のオークションを開催しているのだとか。
とてもではないけれど許せることではない。
今回の依頼は絶対に失敗はできないな。
「ガイ師匠、アルティナ殿は大丈夫でありましょうか?」
娼館から少し離れたところにある民家。
今は、主にお願いをして、仮拠点として使っている。
そんな中、ノドカが心配そうに尋ねてきた。
「アルティナなら問題ないだろう。彼女は強い」
敵のアジトが複数に分かれているため、アルティナは別のところを担当することになった。
当初、彼女はとても不満そうにしていたのだけど……
ギルドマスターとセリスが必死に説得をして、なんとか納得してもらった。
「あ、いえ。アルティナ殿がやられるとか、そういう心配は欠片もしていないのでありますよ」
「? じゃあ、どういう……」
「やりすぎてしまわないか、という心配です」
「あー……」
あるかも、なんて考えてしまう。
アルティナは、とても正義感の強い子だ。
今回の話を聞いて、自分のことのように怒っていた。
そんな彼女が敵を目の前にしたら?
「……やりすぎで損害賠償が来たら、その時は素直に支払うことにしよう」
「……うぅ、そうなったら、しばらくはおかず抜きの生活になるかもしれませんね」
アルティナなら大丈夫、と考えるよりも。
ダメかも……? と、ついつい不安に思ってしまう俺とノドカだった。
「皆、準備はいいか?」
連絡役が姿を見せた。
「今、ギルドマスターから連絡があった。今から30分後に、一斉に各拠点に攻撃をしかけるらしい」
「よっしゃ! 30分後だな? へへ、腕が鳴ってきたぜ」
不敵な笑みを浮かべてみせたのは、期待のルーキー、ゼクスだ。
かなり大規模な依頼なのだけど、怯むことはない。
むしろ、待っていたというかのように堂々とした姿を見せていた。
普通なら、怯み、最悪の可能性をわずかでも考えてしまうものだけど……
なるほど。
剣の腕だけではなくて、心も大したもののようだ。
期待されているのも納得できる。
「ガイ師匠、あやつに負けてはダメでありますよ?」
「なんの勝負なんだ、なんの」
苦笑しつつ、なだめるようにノドカの頭をぽんぽんと撫でた。
――――――――――
30分後。
「行くぜ、おらぁ!」
ゼクスが先陣を切り、俺達は娼館に突入した。
中は……
……まあ、娼館なので女性がたくさんだ。
そして、その格好も……まあ、目のやり場に困る。
「ガイ師匠、目を閉じてくださいでありますよ!?」
「そうだな、そうした方がいいな」
「従ってしまうのでありますか!?」
「問題ない。気配を感じれば戦うことはできる」
「目を閉じたまま戦うとか、ガイ師匠はさすがでありますね! しかし、それはそれで危ないので、目を開けてください」
「しかし……」
「拙者が許可するでありますよ! その……もしも興奮してしまった時は、拙者がなんとかいたしますゆえ」
なんとかって、どういうことだ?
気になったものの、深く追求しない方がいいと思い、スルーしておいた。
「おい、ばーさん。あんたが、ここの責任者は?」
ゼクスは場の騒ぎなど気にすることなく、ズンズンと前に進んで、老婆の元へ向かう。
彼女が責任者であることは間違いないだろう。
すぐにそれを見抜くとは、目は確かなようだ。
「ここがウロボロスのアジトってことは、もう知っているんだ。おとなしく関係者の居場所を教えな」
「……教えなければ、どうするつもりじゃ?」
「別に。その時は、隅々まで探させてもらうさ」
「……」
考えるような間。
老婆はため息をこぼす。
「……連中は地下におる」
「おっしゃ、地下だな! ばーさんと姉ちゃん達は、一応、避難しておいてくれ。巻き込まれるかもしれないからな」
「そうさせてもらおうかのう……皆、最低限の準備をしな。行くよ!」
一瞬で老婆を説得してしまう。
勢いに任せたところはあるものの……
こいつを好きにさせたらいけない、と相手に思わせるだけでもいい。
その点、ゼクスはうまく場を進めることができた。
さすが、と褒めるべきだろう。
「おっしゃ! お前ら、いくぞ!」
「……なんで、あいつが場を仕切っているのでありますか?」
「別にいいじゃないか、誰でも」
苦笑しつつ、俺達は、他の冒険者と一緒に地下に向かった。




