106話 ウロボロス
「……と、いうことがありまして」
「ふむ」
女性を騎士団に保護してもらい、その足で冒険者ギルドへ。
タイミング良くギルドマスターの手が空いていたため、さきほどの事件についての報告、それと、相談に乗ってもらうことにした。
「違法スレスレの酒場を営み、その店を訪れた客を騙して借金を背負わせて、体で払わせようとする……そのようなものが、まだこのエストランテに存在していたか」
「おそらくは、他所からやってきた組織でしょうね。そのようなものは、以前に一度、徹底的に掃除いたしましたので」
セリスも一緒だ。
たまたま近くを訪れていたらしく……
彼女にも相談に乗ってもらおうと声をかけたら、すぐに来てくれた。
とても仕事熱心な領主だ。
「……師匠が声をかけたからでしょ」
「……ガイ師匠は、女性たらしであります」
なぜか、弟子二人の視線が厳しい。
俺は、なにもしていないはずなのだが……
なぜだ?
「その女性は騎士団に保護してもらったため、安心ですが……ただ、いつまでも保護してもらうわけにはいきません。それに、他にも表に出ていない被害者はたくさんいるでしょう」
「ですね……なんていう……」
セリスの顔が怒りの色に染まる。
自身が治める街で好き勝手をして。
さらに、女性の人権と尊厳を踏みにじる。
領主としてはもちろん、同じ女性として許せる行為ではないだろう。
「その組織の詳細は?」
「今、冒険者ギルドの総力をあげて調べているところですが、なにぶん、知らせを聞いたばかりでして……ただ、名前はウロボロスというらしいです」
「……ウロボロス……」
「もっとも、三下が簡単に口にするようなもの。そこまで大きな組織ではないでしょう」
「大小に関わらず、とても許しておけることではありません。即時の殲滅を求めます」
「はい」
ギルドマスターは、やや顔色を悪くしつつ、頷いた。
犯罪組織の情報を掴めなかったのは痛い。
騎士団ではなくて、冒険者を束ねる立場だとしても、やるべきことはやらないといけないのだ。
「もちろん、騎士団も動かしますが……冒険者の方々にも期待をしても?」
「ええ、ええ。もちろんです」
「よろしくお願いいたします」
――――――――――
ギルドマスターと領主の会談が終わり……
その後、一定のランク以上の冒険者が緊急招集された。
俺も、特別枠でそのまま待機させられた。
ギルドの特別ホールに集められた冒険者達の半分は、険しい表情をしている。
おそらく、以前のスタンピードを思い返しているのだろう。
また同じようなことが起きたのでは? ……と。
しばらくしてギルドマスターが、多数の受付嬢と共に姿を見せて……
資料を配り、事態の説明をして……
スタンピードではないと知り、冒険者達は安堵するものの、しかし、配られた資料の内容を見て、再び厳しい顔になる。
他所から犯罪組織がやってきた。
若い女性を食い物にするという、最低の犯罪を行っている。
普通に考えて許せることではない。
「このウロボロスという組織を許すことはできない。これは、騎士団だけの問題ではなくて、我々、この街で暮らす冒険者の問題でもある。故に、この愚か者達に鉄槌をくださなければならない!」
「ああ、その通りだ! ギルドマスターの言う通りだ!」
「ふざけたことをしてくれて……目にもの見せてやろうぜ!」
「こんな連中、許しておけないわ!」
冒険者達が次々と怒りの声をあげた。
それらが収まるのを待ってから、ギルドマスターは言葉を続ける。
「まずは、このウロボロスという組織についての調査を進める。しばらくかかるかもしれない。そのため、皆は、街の警備を行ってほしい。女性を守り、怪しい者がいたら監視してほしい。もちろん、報酬は出そう」
報酬が出るのならば問題はない。
そういうかのように、いくらかの冒険者が頷いていた。
「組織を調査して、本拠地の特定が終われば、壊滅させるための行動に移る。その時に備えて、今から発表する者は、いつでも動けるように待機していてほしい。その間の補填はするし、宿代もこちらで持とう」
かなりの出費になるだろうが、セリスからの支援があるため、大きな問題ではない。
ギルドマスターもセリスも、絶対にこの組織を壊滅させたいのだろう。
「他にも、突入組に回りたいものがいれば申し出てくれ。その全ての希望を叶えることは難しいかもしれないが、なるべく検討しよう。ただ、忘れないでほしい。敵を倒すだけではなくて、街を守ることも大事な依頼ということを」
冒険者達は、真剣な表情で同時に頷いた。
「では、突入組を発表する。まずは……」
いくつかの冒険者の名前が挙げられて……
そして、俺、アルティナ、ノドカもメンバーに参加することが決まった。
元々、そういう要請を受けていたため驚きはない。
ただ……
「最後に……ゼクス・レイ」
「おうっ!」
とても元気な声が響いた。
見ると、15歳くらいの若い少年がいた。
ツンツンとした赤い髪は逆立ち、ハリネズミのようだ。
子供から大人に成長する途中。
若さと精悍さが入り混じったかのような顔。
左右の腰に、それぞれ剣を下げていた。
「俺に任せてくれよ、ギルドマスター! そんな悪の組織、このゼクス様が壊滅させてやるぜ!」
「……やる気があるのはいいことだが、敵の詳細は不明だ。決して侮らないように」
「なーに、たかが小悪党、この俺様の敵じゃねえ! っていうか、そいつらのやっていることは絶対に許せえねえからな。徹底的に叩き潰してやるよ!」
ギルドマスターが、小さくため息をこぼすのが見えた。
ふむ。
あの少年、かなり注目されているようだけど、有名人なのだろうか?




