105話 無法者
「どうか助けてくださいっ!」
依頼を終えて、宿に帰る途中。
突然、見知らぬ女性が抱きついてきた。
「「ちょっ!?」」
アルティナとノドカは、猫が毛を逆立てるような感じで大きな声をあげた。
どうしたのだろう?
「あぁ、どうか、どうかお助けください!」
「落ち着いてください。いったい、なにが……」
「おい、そこのおっさん」
振り返ると、三人の男がこちらを睨んでいた。
街中だというのに武器を抜いている。
刃をちらつかせつつ、不敵な笑みを浮かべていた。
「その女を渡してもらおうか」
「……この女性とキミ達の関係は?」
「そんなこと、なんの関係もないおっさんに話す必要はねえよ」
「そうか」
俺は、女性を背中にかばう。
男達の視線がさらに険しくなるものの、関係ない。
男、女は関係なく。
困っている人がいるのならば見捨てることはせず、できる限りで助けること。
それがおじいちゃんの教えだ。
もっとも。
そう教えられていなくても、俺は、彼女を助けただろう。
「悪いが、彼女を渡すわけにはいかない」
「あぁ……今、なんて? 悪いな、耳が遠くなったかもしれん」
「彼女は渡さない。どこの誰か知らないが、帰れ」
「へぇ……これを見ても、同じことが言えるか?」
男は肩につけられた刺繍を見せつけてきた。
蛇が剣に巻き付いているかのような、そんな紋章だ。
「……なんだ、それは?」
男達が爆笑する。
「おいおいおい、俺等、ウロボロスを知らないとか、どんな田舎者だよ」
「アニキ、こいつ、可哀想すぎて同情してきましたぜ」
「まったくですね。私達の組織を知らないなんて、それだけで死に値するというのに」
ふむ。
話から察するに、彼らはどこかの犯罪組織の一員なのだろう。
そして、女性はそれに巻き込まれている。
……と、いったところか?
ますます、彼らに女性を引き渡すわけにはいかない。
「おっさん、警告は一度だけだ。二度目はないぜ?」
「二度だろうが三度だろうが、答えは変わらない。帰るといい」
「そうか……なら、死ね」
リーダー格らしき男が勢いよく前に出て、斬りかかってきて……
ブォンッ!
風を大きく巻き込むような音と共に三回転ほどして、近くのゴミ箱に頭から突っ込んだ。
「「……え?」」
残された二人は、唖然とする。
「「……え?」」
アルティナとノドカも唖然としていた。
「……ねえ、ノドカ。今、師匠がなにかしたと思うんだけど……あなた、見えた?」
「い、いえ……ガイ師匠が投げ飛ばした、という予想はできるのですが、詳細はなにも……」
「簡単な話だ。相手の勢いを利用して投げ飛ばす……ただ、それだけのことだ」
「簡単に投げ飛ばされて、あの様とか……あたし、あいつにちょっと同情するわ」
「拙者も……」
相手は悪党だ。
問答無用で命を奪うつもりはないが、多少、痛い目に遭わせることに抵抗はない。
「てめえ……!」
「覚悟していただきましょうか!」
「それは……」
「拙者達の台詞でありますよ!」
今度はアルティナとノドカが前に出て、残り二人を撃沈させた。
剣の腹で殴りつけたため、血は出ていない。
ただ、鉄の棒で殴られているようなものなので、骨は折れているだろう。
……俺よりも酷いことになっているのは、気のせいだろうか?
――――――――――
その後、少しして騎士がやってきて、三人は連行されていった。
そして、俺達は近くのカフェに場所を移して、自己紹介をして、それから女性から話を聞く。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました!」
「いえ、無事でなによりです」
何度も何度も頭を下げられてしまうと、こちらが恐縮してしまうな。
「なにか問題を抱えているようですが、どうされたのですか?」
「それは……」
「俺達のことは気になさらず。今更のことですし」
「そ、そうですね……申しわけありません」
「ああ、いえ。責めるつもりはなかったんです。ただ、ここまで関わったのだから、最後まで頼りにしてほしい……と」
「あぁ……ガイ様は、本当に英雄なのですね」
いくつかの事件に関わり、俺は、エストランテでそう呼ばれるようになったのだけど……
正直、こそばゆい。
あと、過大な評価だと思う。
慣れない扱いに苦笑しつつ、話の続きを促した。
「実は……」




