ベガルタL型 VS ナイトシェード・羅刹
大破して頽れるゼファルス領所属の巨大騎士を見遣り、同系の指揮官騎を駆るアインストは感情を抑え、外部拡声器から落ち着いた声を響かせる。
『あの四本腕は私が受け持つ、此方が寡兵とは謂え、内地で惰眠を貪っていた腑抜けどもに遅れは取るなよ』
『我らが麗しき “救世の乙女” のため、領民のため……』
『護るべき笑顔のため、命を賭けるは我らが本懐ッ!』
西方の激戦地より帰参した派遣組の騎士二名が発破に応え、其々に皇統派のグラディウスと槍撃など交わしていた騎体を一度退かせ、逃がすまいと追い縋るような刺突を半身で凌がせた。
鋭い切っ先に腹部装甲を削られながらも、勇ましく踏み込んだベガルタの一体が敵騎の股下に鉄槍を突き入れたまま左側へ抜け、梃子に見立てた長柄で両足を払う。
『うぉおお!?』
『きゃあぁッ』
大きく態勢を崩した躯体に鋼鉄の掌を添え、情け容赦なく押し込めば、堪え切れずに倒れていく。
ほぼ同時に仕掛けた僚騎も正拳突きを敵騎の顔面へ喰らわせており、疑似眼球に無視できない損壊を与えていた。
『立ち上がってッ、早く!!』
『ぐうぅ、畜生、目が…』
狼狽するリグシアの操縦者ら二組に対して、熟練のゼファルス騎士らは自騎に適度な間合いを取らせ、各々が獲物と定めた標的の心臓部に鉄槍の穂先を突き刺す。
致命傷により敵方の二体が動きを止めるも… 他方では四本腕のナイトシェード・羅刹が猛威を振るい、理不尽と言える手数でアインストの指揮官騎を圧倒していた。
主兵装の雷槍は仕込まれた爆薬を炸裂させる暇なく、中程から斬り落としで切断されてしまい、補助兵装の長剣と中型盾で途切れない連撃に耐えている有様だ。
『ぐッ、洒落にならんな!!』
『いつの間にこんな巨大騎士を……』
絶句するエリザの声を聞き流して、複腕騎の右腕二本による斬撃と刺突をシールドバッシュで纏めて弾けば、脇構えにされていた左主腕が力任せに鉄剣を薙ぎ払う。
何とか長剣を割り込ませて受け止めた瞬間、密かに差し込まれていた左副腕の短槍が騎体脇腹を抉り、指揮官仕様のベガルタL型と繋がる二人に激痛を走らせた。
『… 部下の仇、取らせてもらうぞ』
『はッ、語るに落ちたな下郎!!』
『盗人猛々しい』
唐突に掛けられた言葉の心当たりなど、主君のニーナ・ヴァレルを狙って中核都市に仕掛けてきた賊しかないため、腹部の痛みを呑んでアインスト達は嘲笑する。
されども形勢は覆らず、ナイトシェード・羅刹が振るう多角的な攻撃で外部装甲を切り刻まれ、ついに人工筋肉まで達した刃が騎体の動きを鈍らせた。
麾下のゼファルス勢は数の差を感じさせることなく、不利な状況でも善戦を繰り広げているが、誰かの援護に廻る余裕はない。
『… 已む無しか、すまないな、エリザ』
『しょうがないわね、付き合ってあげる』
死なば諸共の魔導士に詫びて多少の距離を取り、ベガルタL型の左袖下に隠された魔法銀交じりのワイヤーアンカーを撃ち放つ。
純粋な圧縮魔力の爆散によって射出された先端部が複腕騎の右主腕を貫き、次の挙動を一瞬だけ躊躇させた直後、巻き取り装置を作動させつつ左掌に掴んだ剛糸も手繰り寄せていく。
『ッ、レオ!』
敵方の魔導士と思われる少女の警鐘に構わず、灰白色の指揮官騎を突撃させて、正面に据えた中型盾で反射的な左腕二本による攻撃を押し除け、自重と加速の乗った特攻を喰らわせる。
重い衝撃に後退を余儀なくされた複腕騎へ迫り、胸郭に長剣を突き立てようとするものの、幾つもの損傷を受けていた人工筋肉が断裂したのか、躯体が思うように動かない。
中途半端に掲げられた右腕など滑稽でしかなく、その状態を見透かされている大振りな一撃で切り飛ばされてしまった。
『うぐぅううッ!!』
『きゃうぅ!?』
神経節経由で齎された激痛に呻きながらも乗騎を飛び退かせた上、諦めの悪いアインストが左手の中型盾を片膝立ちで翳させて、もはや同意不要と判断したエリザが転移脱出の魔封石を発動させる間際… リグシア領軍の一部に動揺が奔り、焦燥交じりの大声が響き渡る。
『エイドス領の騎士隊、壊滅します!!』
『ちッ、伏兵の数、殆ど減ってないじゃないか……』
『何やってんだよ、あの雑魚ども!!』
何やら酷い言われようであるが、十二体に及ぶグラディウスや重装騎を以って、戦闘不能に追い込めたのは旧式であるクラウソラスが二体だけなので、撃破対被撃破比率は 6:1 という理解できない数字だ。
担い手の技量や身体能力が多大な影響を与える巨大騎士の性質を踏まえたなら、森側に伏せていたのは手練れの最精鋭と考えて間違いない。
『レオナルドッ、第二班を任せる』
『了解… 対処してみせます』
陣頭指揮を執るヴァルフに応えてから、副官たる将校は既にもぬけの殻であろうベガルタL型を複腕騎の右脚で蹴り倒すと、短槍の一本で抜かりなく操縦席を潰した。
まだゼファルス所属の軍勢は十数体ほど残存しているが、頭目さえ失えば脆いだろうと高を括り、組み替えられていく陣形に従って乗騎の踵を返す。
それに伴い、疑似眼球に黒銀の騎体を捉えて、嫌そうな表情を浮かべる魔導士エルネアとは対照的に口端を釣り上げた。
四本腕の描写とか、微妙にハードルが高かったのです(;'∀')




