もっと良い騎体に乗りたいだけの人生だった by 新任騎士のリタ
激しい衝撃が騎体を軋ませたかと思えば、ぶつかり合う重い金属の塊による鈍い音が響き、踏ん張ったにも拘わらず肩盾を前面にしたショルダータックルで弾かれてしまう。
『ぐうぅッ!!』
『うきゃああぁッ!?』
レヴィアの悲鳴に耳朶を打たれる中で、即座に崩れたベルフェゴールの体勢を立て直そうとするも、懐に半歩つめてきた重装騎が掲げた戦槌を振り降ろす。
頑強な躯体を活かした突撃で隙を作り、操縦席目掛けて貫通特化の一撃を見舞ってくる手際に歓喜しつつ、物騒な得物のポール部分に左腕の装甲を叩き込ませて受け止めた。
『良いな、貴様、命を削り合うに値するッ!』
『あぅ、クロードの変なスイッチが……』
何やら動力制御を担う赤毛の魔導士娘が不満げなのに反して、黒銀の騎体に内蔵されている魔導炉 “獅子心王” は俄かに出力を高め、骨格に張り巡らされた人工筋肉も滾っていき… 今まで沈黙していた相手側の魔導士に苦鳴を上げさせる。
『ッ、押さえ… 切れないわ』
『馬鹿なッ、グラヴィスの膂力を上回るだと!?』
『救世の乙女が鍛造して、双子エルフが研ぎ澄ませた刃金だからな!!』
先史文明の “機械仕掛けの魔人” に及ばずとも破格の性能を以って、重装騎の戦槌を力任せに払い除けながら踏み入り、右掌に把持していたサーベルの護拳で顔面を穿つ。
さらに間髪入れず、無骨な左拳のボディブローを胸部へ喰い込ませたが、初撃を受けた時点で彼の騎体は回避行動に移っており、厚い装甲を多少陥没させて歪めるに留まった。
その直後、退きの間際に振り下ろされていた戦槌の爪が迫り、拳打を放ったばかりの左腕に突き刺さって装甲が派手に砕ける。
『やってくれるなッ、ベルトラン!』
『其方の為すが侭にはならん!!』
気勢と共に重装騎が左掌を翳して、密かに術式を構築させていたのか、魔法の発動に付随する眩い燐光を灯した。
不意打ち気味な近距離射撃ではあるが、守勢に廻れば次の行動が遅れると本能的に理解して斬り込み、魔法の核になる部分ごと鋼鉄の指を纏めて刎ね飛ばす。
『ぐぅ!?』
『うぁ…』
短く呻いた対峙者らは重装騎の右足を下げさせて半身となり、左肩の大盾で追撃を警戒したが、此方はサーベルの柄から右掌を離して盾縁に掴み掛かった。
無理やり手堅い防御をこじ開け、渾身の左拳を再度胸部へ打ち込んだ刹那、歪な剛腕に搭載された延長用のバースト機構も発動させる。
先程の打撃で損傷していた装甲は二重の衝撃に耐えられず、不協和音を響かせて操縦席ごと潰れ… 重装の騎体、グラヴィスは立ち往生のまま駆動を停止した。
『無情だな、手加減の余地がなかった』
『…ん、戦いだからね』
展開が少しでも違ったなら斃されていたのは此方であり、死力を尽くした相手にも失礼なので、くだらない罪悪感など抱かないが、胸に宿る寂寥は否めない。
中々に優れた者達だったのを惜しみつつ、騎体同士の格闘戦に興じる最中であれど、意識だけは配っていた周囲の状況を改めて把握する。
最後までエイドス領所属の敵騎と戦っていた満身創痍のクラウソラス三番騎も、何とか相手を追い詰め… 倒れ込むように突き出した鉄剣で腹部装甲を貫いた。
『身内の損害は中破と大破が其々に一体か』
『すまん、新任の騎士らに経験を積ませたかったんだがな』
『不覚にも助勢する機を逸しました、陛下』
朽ち果てたグラディウスの傍に専用兵装の大剣を突き立て、申し訳なさそうな声を響かせたゼノスとフィーネの団長騎から、自騎の疑似眼球を転じさせて、片膝を突いたまま立てそうもないクラウソラス二番騎の損傷度合いなど一瞥する。
胸郭付近に勢い余って折れた薙刀の穂先が深く刺さり、血液たる赫い魔導液を滔々と垂れ流していた。
『生きているか、二人とも』
『うぅ、無念です、性能が悪い旧式騎のせいで死んじゃう、もっと良い騎体に乗りたいだけの人生だった』
何処となく声音に痛々しさがある以上、操縦席の内部に飛散した破片で負傷しているのかもしれないが、巫山戯た台詞を鑑みれば命に別状はないだろう。
取り敢えず一息吐くと、相棒の女騎士に呆れた魔導士の溜息と重なる。
『遅れを取ったのは未熟が原因です、私達のことは捨て置いてください』
『その騎体は後で回収する。今は放棄していい、転移の魔封石を使え』
『承知しました、リタと一緒に森側へ脱出します』
『草葉の陰から皆の活躍を見守ってますね~』
“墓の下” を意味する大和の慣用句など枕詞にした悪質な諧謔で応援され、正規昇格させる準騎士の選定基準に疑問を感じていれば、裂かれた胸部装甲の隙間から微量の魔力光が零れて消えた。
図らずも魔封石の発動を確認した上で、風に乗ってきた鉄塊を打ち合う硬質な音に誘われ、1㎞ ほど先の平原で交戦しているリグシア領の軍勢に傾注する。
『此処から魔法の一斉射撃ができると楽なんだけど……』
『兄様、それでは女狐さんの手勢を巻き込んでしまいます』
『あはは、御免ね、そんな感じであたしもさっきは碌な援護ができなかった』
『精々、距離をつめる際の手助けが可能だった程度です』
後方よりスヴェルS型の一番騎を上がらせてきた琴乃の声が月ヶ瀬兄妹の会話に割り込み、僚騎の言葉も添えられて僅かな沈黙が降りる。
『…… また白兵戦が確定なんだね。うん、分かってたよ』
『もう一仕事だな、レヴィア』
休む暇もなく数的劣勢を強いられる友軍のため、継戦できそうにないクラウソラス三番騎を退避させて、健在な騎体のみ率いる形で加勢に向かう一歩を踏み出した。
既に素のクラウソラスは旧型なので、皇統派のグラディウスより弱いのです。段々と騎士国でも訓練用の騎体に廻されていくんでしょうね(*'▽')
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