うぅ、クロードがまた身も蓋も無いことを…… by レヴィア
なお、全力疾走の状態にある騎体は第一世代の改良型で時速80km以上、第二世代に至っては高機動実験の過程で組まれた試験騎が時速180kmを記録している。
この骨格が剥き出しで武装を持たない巨大騎士の開発者も勿論、蠱惑的な肢体と美貌を持つ女狐ことニーナ・ヴァレル嬢なので、彼女が誇る祖国ドイツの詩人シラーに因んだ個体名 “Damon” が与えられていた。
彼の著書では「ウイリアム=テル」が有名なものの、処刑されるのを承知の上で親友PythiasのためにDamonが走る物語「人質」、要するに太宰治が編纂した「走れメロス」の原作より、主人公名が採用されたのは騎体速度の検証に主眼が置かれていた故だろう。
ともあれ、ゼファルス領の巨大騎士隊が彼我の距離を詰めて、魔法攻撃の有効射程へ突入するまで凡そ4分に満たない。
その間に “魔導砲” をもう一発喰らわせるべく、リグシア領側の混成軍では遠目だと小さ過ぎて捕捉できなかった随伴小隊が動き回り、砲撃専用の騎体 "キャノンディール” の魔力供給ユニットを換装させていた。
「急げよ、お前らッ! 命が幾つあっても足りねぇ!!」
「… 何で俺達、騎体同士の戦場にいるんでしょう」
「泣言や文句は生き延びてから白狐の嬢ちゃんに言え、あいつの設計が悪い!」
「任せてください! うちの隊長が切れてましたと、本人に伝えておきますね!!」
半ばやけになりつつも、彼らは二班構成で滞りなく作業を進めていき、騎体の左右両脚と其々に繋がった魔力結晶入り格納器の伝導ケーブルを手際よく解除する。
先制の長距離射撃で使用済みとは謂え、重さ100㎏前後ある格納器は時間短縮の観点から二台の荷馬車に積んだまま運用しており、作業に注視していた輜重兵達が透かさず馬の手綱を引き、後方へ運んでいった。
「よし、次の持ってこいッ、二番騎の連中より先に終わらせるぞ!」
「あ、向こうの分隊より早かったら、何か奢ってくださいよ」
「いいっすね、それ」
「酒場で乾杯といきましょう!!」
などと、自騎の集音機が拾ってきた整備兵らの雑談に苦笑する傍ら、リグシア領の騎士長ヴァルフは迫ってくる相手方の騎体群を見遣り、鋭く碧眼を細める。
乗り手の意思は人工筋肉の神経節を通じて躯体と連動するため、グラディウスMr-Ⅱの疑似眼球も焦点を絞らせた。
「僅差であと一撃って感じかしら?」
「あぁ、そうだな」
後部座席に収まっている魔導士の従妹に短く応え、彼の御仁は念話装置の共有回線で各騎に呼び掛ける。
『次の砲撃後に前面へ立つ、魔導士達は術式の構築を始めておけよ』
『『『了解ッ!!』』』
威勢の良い返事から数十秒、魔法攻撃の有効射程が互いに重なる間際となり、再び二体の砲撃騎が紫電を走らせようとするも……
森林があることで視認性の低い側面より、高速で飛来した軽硬化錬金製の “巨矢” が片方の砲身に刺さって、鏃に付与されたフレイム・ボムの魔法を炸裂させた。
『ぐッ!?』
『だ、駄目ッ、暴発… きゃああッ!!』
動力制御を担う魔導士の切羽つまった声が漏れ聞こえた直後、魔導砲を穿たれたキャノンディールの一番騎は凄まじい爆炎に包まれて、半身を吹き飛ばされながら地面に斃れていく。
健在な二番騎がゼファルス領軍の旗頭と思しき騎体に閃光を奔らせる中で、大半のリグシア騎士達が自騎を振り向かせた先、迷彩仕様の外套を纏って緑の風景に溶け込んでいる複数の騎影があった。
『北西 1.6~2kmの地点、敵騎多数を確認!』
『魔獣の森を抜けてきた伏兵かッ!!』
『ちッ、正面に気を取られ過ぎたな… エイドス領の部隊は新手を、此方は既存の軍勢を叩く!!』
外部拡声機を通したヴァルフの声に従い、第一世代の改修騎であるグラディウスや、強襲型のナイトシェードを合わせた麾下の三十数騎ほどが漸進する。
指揮系統が異なる援軍の巨大騎士隊も連携して動き始め、迷彩外套を脱ぎ捨てた伏兵の騎体群と正対しながら、慎重な足取りで徐々に距離を潰していった。
その様子を離れた位置から眺めつつ、放心していた射手の少女がぼそりと呟く。
『敵騎、派手に爆散したけど死んでないよね、蔵人さん』
『余計なことは考えるな、琴乃。迷いは自身と仲間を殺すぞ』
『うぅ、クロードがまた身も蓋もないことを……』
『この場合、適切ではないと思われます、陛下』
若干の非難が籠められたレヴィアとフィーネの言葉を受け、どうやら対応を間違えたのは理解したが、是非も無し。
戦場で集中を欠くのは危険極まりないため、真摯に輩の身を案じていれば、耳に痛くとも言及せざるを得ない。
『人を殺める覚悟が定まってないなら、援護射撃に徹するだけでも構わない。一番騎の面倒を見てやってくれ、ダ―ヴィ』
『了解です、任せてください』
兵装の弓を掲げさせたスヴェルS型の二番騎を一瞥してから、近接特化のF型を露払いとする前衛組に黒銀の騎体を紛れ込ませて、諸共に前方へ駆けさせる。
直線的な動きだと魔法射撃を喰らうので、ある程度の間隔を開けた僚騎と同じく、緩やかに自騎を蛇行させながら剣戟の間合いまで肉薄していく。
実戦経験が浅そうな皇統派の騎士達は焦ったのか、曖昧な狙いで突き出させた鋼鉄の右掌から次々と魔弾を放たせるも、矢面に立つ騎士国の精鋭らに直撃させることはできない。
グリム家の騎士令嬢ことレインや、寡黙な騎士ザックスが繰るスヴェルF型の角度を付けた腕盾で受け流され、あるいは月ヶ瀬家の兄妹が駆るベガルタの双剣に弾かれて、魔力による砲弾は明後日の方角へ消えた。
走れメロス、日本以外だとダイモンなんすね(;'∀')
★ 物語の書き手としての御願い ★
私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね。
『面白い』
『頑張ってるな』
『応援しても良いよ』と思って頂けたら
下記の評価欄から応援をお願いします。
※広告の下あたりにポイント評価欄があります!




