表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/143

初陣の女狐と有視界戦闘

 他方、迎え撃つゼファルス領の軍勢はすでに布陣を済ませており、やや後方には戦闘を想定して改修された飛空艇がぷかりと浮かんでいる。


 横幅が狭い船室内の窓際に立ち、つややかなダークブラウンの髪を指先でいじりつつ、士気高揚のためみずから出陣したニーナは西側 4㎞ほどにある森林の入口をながめていた。


 その浅い部分は小都市ベグニッツに根差す猟師らの庭だが、深入りすると中型種の魔獣フェルム・クーガーや、少ないながらも大型種に分類される巨躯きょくの蛇アヴァルスなども巣くう。


中々(なかなか)の難所ですけど、Mr(ミスター).ブシドー… ではなく、騎士王殿は大丈夫でしょうか?」

「別に言い直さなくても良いわよ、恐らく彼の本質は武士(もののふ)だから」


 遠慮がちに声を()けてきた侍従兵の少女がアイウス帝国生まれの日系人で、呪錬刀 "不知火しらぬい” を(たずさ)える軍服姿のクロードに感動していたなと思い出し、領主令嬢は好きに呼称してかまわないと(うそぶ)く。


 若干じゃっかん、恥ずかしそうに頬を染めた大和(やまと)系譜けいふつらなる娘を見遣みやり、(わず)かに考える素振りを見せてから、こともなげに微笑んだ。


「ま、問題ないでしょう。ジャックス技官の報告だと、人間を辞めかけているような強さみたいだし… 騎体(きたい)と神経節で繋がって、魔導炉の影響でも受けたのかしら?」


 “熟練の操縦者が生身での運動能力を向上させている” という興味深い報告は自領にける騎士長のアインストからも聞いており、とりわけ最前線の西方三領地で顕著になっている現象らしい。


 ただ、銃弾を連続してかわすとか、戦場に出られる水準の魔術師がはなった炎弾を刃で平打(ひらう)ちするとか、思わず疑ってしまう(たぐい)の内容はふくまれていなかった。


(ん~、積み重ねた鍛錬による幾つかの要素が有機的に組み合わさって、ある閾値(いきち)を超えたら、人の枠を外れるような覚醒にいたる?)


 学問の領域でも試行錯誤を繰り返した末、途上で明らかになった客観的な事実を並べて、より高度な次元の推論に到達するのは珍しくない。


 それがフィジカルな分野でも起こり得るのか、一抹いちまつの疑問が残るものの専門外であるニーナには解明できない事柄だ。


「はぁっ、結論としては考えるだけ無駄ね」


「えっと……」

「気にしないで、単なる独白(どくはく)よ」


 少々思索に(ふけ)ってしまったのもあり、手持ち無沙汰ぶさたとなっていた侍従兵の少女に一言添えてから意識を窓の外へ戻そうとすれば、艦橋で双眼鏡を(のぞ)き込んでいた斥候兵の振り向く姿が視界にうつる。


「リグシア及びエイドス領の編隊らしき騎影(きえい)(およ)そ距離 32~36kmの地点に確認しました。此方(こちら)と同じく徒歩の一般兵科を残して、巨大騎士(ナイトウィザード)だけで先行してきた場合、半刻足らずで交戦域に入ります」


「ありがとう。彼方(あちら)も軽率な人的被害は出したくないでしょうし、勝敗を決めるのは騎体きたい同士の戦い、市街地制圧が主目的の随伴(ずいはん)兵は後方に待機させると思うわ」


 代々猟師を生業なりわいとしてきた家系の斥候兵に歩み寄り、受け取った双眼鏡でながめるも… 研究資料の編纂へんさん等で視力を落としたニーナでは、未だ小さな点の集まりにしか見えない敵勢を捕捉ほそくできなかった。


 やはり戦闘指揮を()るのは不向きだと密かになげきつつ、水平線の存在で視野が飛空艇よりも短い地上部隊と情報の共有をするため、念話装置の前に陣取った兵卒へ指示を与える。


「アインストに彼我(ひが)の距離と接敵までの予想時間を伝えなさい」

「了解、通信回線を騎士長に繋ぎます」


「斥候兵、敵騎の数は判断できる?」

「やってみますが、取り敢えずそれをください」


 何気なにげに握り締めたままだった観測役の商売道具を返却して、継続的な報告など言付ことづけてから、領主たる令嬢は内装の変更時に(しつら)えさせた自席へ戻った。


 (にわ)かに緊張感が高まっていく最中さなか… 普段は冷静沈着な女狐殿も初陣(ういじん)に気を()かせたのか、まだ 10km前後の距離がある段階で、動力制御を担当する二人の女魔導士に積層障壁魔法の構築が命じられる。


 この世界では有視界戦闘が常識であり、命中精度を(かんが)みた巨大騎士(ナイトウィザード)の実質的な魔法射程は 1km前後にも(かか)わらず、高度な術式を発動段階で長時間維持しろと無茶振りされた当人らはフリーズしてしまう。


「あのぅ、非常に申し上げ(にく)いのですが、逆に危険です」

「何かの拍子に精神集中が途切れたら、暴発しちゃいます」


「…… 御免(ごめん)なさい、魔法には(うと)いの」


 ある種のアルゴリズムだと認識していても自身が扱えない限り、予期せぬ事態での危険性などは理解が深まらない。


 上手くいかないものだと溜息を吐いていれば、敵騎てっきの動向に傾注(けいちゅう)させていた斥候兵が会話に割り込んできた。


「敵方の軍勢、5~6kmほどの地点で停止」

「丁度、騎体きたい疑似ぎじ眼球で互いにある程度はっきり… 目視できる?」


 (おとがい)に手を添えたニーナが言葉を切り、先の懸念事項けねんじこうである長距離射撃の可能性を再検討するも、注意を喚起かんきする(ひま)もなく紫電の閃光が(はし)る。


 眼下で陣形を組んでいた騎体きたいのうち、クラウソラス後期型の二体が把持はじする対魔法兵装の盾ごと轟音を響かせて爆散、その余波を受けて斜め後方にいるベガルタも一騎が擱座(かくざ)させられた。


『ッ、魔力炉に損傷… 駄目、緊急停止します』

『畜生、破片の当たり所が悪い!!』


 開戦早々に脱落した()()()の騎士が悪態を吐き、彼の同輩どうはい達も出端でばな(くじ)かれて動揺するのと対照的に、西方三領地で様々な異形いぎょうと切り結んできた()()()の数名が鋭く目を細める。


『あの距離から撃てるのか、実に素晴らしいな』

『えぇ、最前線に持ち帰りたいですね、何人の命が(まかな)えることやら』


『お前ら自重しろよ、しょぱなからってくれた礼を返すぞ』

『騎士長、号令を……』


 歴戦の猛者らにうながされたアインストは自騎じきうなずかせると、躯体くたいに組み込まれている外部拡声器(スピーカー)から激を飛ばす。


『あの威力で連発できるとは考え(がた)い、二の足を踏んでも撃たれるだけだ。各騎かっき、散開しながら吶喊(とっかん)する! 砲撃仕様の敵騎てっきとは正対するなよ!!』


『『『おぉおおぉ――ッ!』』』


 気迫のこもった喊声(かんせい)が響いた刹那せつな、二十数体を越えるゼファルスの巨大騎士ナイトウィザードが一斉に駆け始めて、待ち受けるリグシアの軍勢に突撃していった。

戦車砲の射程とか、3㎞ほどらしいですね(*'▽')

水平線の都合で見通しがつく限界距離を考慮すると長い射程は要らないそうです。


★ 物語の書き手としての御願い ★


私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、縁のあった物語は応援してあげてくださいね。


『面白い』

『頑張ってるな』

『応援しても良いよ』と思って頂けたら


下記の評価欄から応援をお願いします。

※広告の下あたりにポイント評価欄があります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 来た来た、4本腕! ニーナさんにも苦手な分野があったんですね。まあ、それはそうですよね……
[一言] 遅れ馳せながら明けましておめでとうございます 年明けたら何か有りましたか? 凄く引き付けられる作品に成ってます 文才が無くて此処がって言えず申し訳御座いませんが、キャラ立ちがしっかりしてる…
[一言] 戦車の射程は3km前後なのは先に空爆や自走砲及び自走ロケット砲などによる制圧射撃が行われるのが前提にあるためなんですよね 自走砲が30〜50、ロケット砲が30〜80、爆撃機に至っては実質1万…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ