猪突の女騎士 VS 寡黙な騎士 (ただし、模擬戦)
今回は王都で留守番しているサブキャラ達と近接戦闘用騎体のお話です('ω')ノ
俄かに整えられていく舞台裏など露知らず、秋晴れした空の下、二組の男女が王都エイジアの大通りを進んでいた。
彼らのうち、寡黙な騎士のザックスはひと廻りほど若い恋人を気遣い、歩幅を合わせているのと対照的に… 勝気な騎士令嬢のレインはこれまた歳下の相棒よりも、祭典の準備で活気づく街並みに意識を奪われている。
「ん、順調そうでなにより、私も馬上試合の鍛錬に熱が入るというものです」
「…… 先ずは目先の性能評価試験が大事だけどね」
壁外の演習場で行われる模擬戦に集中してもらうためか、搭乗する騎体の動力制御を担う魔導士ヨハンが声を掛ければ、操縦者たる令嬢は綺麗な金糸の長髪を揺らして振り返った。
「勿論、それも楽しみにしています。新鋭騎のスヴェルF型を任されたのは我がグリム家にとって、紛れもなく名誉なことですから」
「だからと言って、手加減はしないがな」
「もうッ、ザックスは真面目すぎるよ」
状況次第では角が立つであろう朴訥な物言いに呆れ、公私に於いて彼の騎士と寄り添う魔導士リネアは言葉を補うが、黙していれば美人に分類される外見とは異なり、残念ながら剛毅な性格である軍校の同期生は気にせず受け流して踵を返す。
(皆、レインのように単純なら良いんだけど)
胸裏で密かに溜息を吐き、近々起こり得るかもしれないアイウス帝国の内紛に際して、要職を含む官吏の一部が “関与すべきでない” と主張しているのを聡い少女は思い出した。
表沙汰にせずとも、魔導核の技術がニーナ・ヴァレルより供与されたと勘づける者達は兎も角、愚鈍な連中はクロード王が援軍派遣を決めた場合に反駁するのだろう。
因みに主要な整備兵に加え、王都所属の騎士や魔導士の多くは内情を察している側であり、必要に応じて戦地に赴く覚悟を決めていた。
(できれば快く、戦場に送り出して欲しい)
下手を打てば城内だけの話で済まず、市井の人々まで出征に疑問を持ってしまうため、事態の推移には注意を払う必要がある。
やや表情を曇らせたリネアが思案していると… ザックスの大きな手が伸び、慰めるようにポフポフと頭を軽く叩いた。
「何を懸念している、悩んで解決する類の問題か?」
「はいはい、どうせ “時間の無駄” ですよ~」
どうしてこんな朴念仁に惚れたのかと悩みつつも正門を潜り、前を歩く騎士令嬢らに続いて防壁から数百メートルほど離れた演習場に辿り着けば……
そこには白を基調として黒も混じる近接特化の巨大騎士 “スヴェルF型” が堂々と聳え立っていた。
狙撃型よりも要所に分厚い錬金製装甲を備えるため、搭載魔導炉は双子エルフが関与した出力微増型である。
今日も小柄な双子達は操縦席に潜り込み、ピコピコと長い笹穂耳を動かして作業に勤しんでいた。
「ミア、ミラ、魔導士が来たぞッ!」
「「了解です、此方に寄越してください!!」」
スヴェル系統の識別番号で三番と四番を割り振られた各騎から、似たようなタイミングで双子がひょこりと顔を出す。
樹洞に住み着いた小動物の如き姿に微笑んでから、移民系アメリカ人の整備兵長はヨハンとリネアに騎体への搭乗を促した。
それから遅れる事暫し、其々の騎士達も調整を終えた巨大騎士に乗り込み、広い原野の中ほどまで移動して、適度な距離にて向かい合う。
「いいかッ、演習用の武器は装甲材よりも柔らかい軟鉄製だが、あまり羽目を外して騎体を壊してくれるなよ! 特にレイン、分かってるだろうな!!」
『うぐぅ、何故に私だけ名指しなのです』
『…… いや、正鵠を射ていると思うよ、僕は』
深く同意を示したヨハンの感情が身体に纏わり付く人工筋肉の神経節から伝わり、少し不機嫌になったグリム家の令嬢がスヴェルF型の四番騎を繰り、無刃のハルバードを構えさせる。
対峙する三番騎のザックスも重心を落とさせて、同じ得物を斜めに寝かせて持ち… 開始の合図と共に背部バースト機構を噴かせ、低い姿勢で吶喊する。
『うおぉおおッ!』
『拙速な!!』
即応したレインは四番騎の左脚を退かせながら、膂力に上半身の自重も乗せた斧刃を振り下ろすが、僅かに機先を制されてしまう。
渾身の斬撃はハルバードの長柄同士を打ち合わせることで止められて、直後に加速度の乗った突進まで喰らい、彼女が駆る巨大騎士は数歩のたたらを踏まされた。
『ぐぅ!』
歯を喰いしばって堪えようとするも、詰めてきたスヴェルF型の三番騎は既に右膝を上げており、すぐさま鋭い中段蹴りが繰り出される。
それを騎体腹部に受けて押し飛ばされ、再び間合いが開いたところで止めを刺すような一撃が放たれた。
『ッ、舐めるなぁ!!』
『ちょッ、レイン!?』
猪突猛進な相棒を諫めるヨハンの声など馬耳東風、レインは四番騎の両掌で把持しているハルバードを高めに掲げ、交差させた長柄の中心で斬撃を押さえ込む。
さらに流れるような動作で先端部の斧頭を振り落し、鎌下を三番騎の首裏に引っ掛けて手繰り寄せると、鳩尾に強烈な膝蹴りを喰らわせた。
『ぐッ、やってくれる』
『うぅ、おなか痛い……』
人工筋肉経由の感覚共有で呻いたリネアの声を聞きつつも、ザックスは長柄より離した鋼鉄の左掌で相手の武器を掴ませ、絡んだ鎌下を横に外してから、連続的なバックステップで騎体を飛び退かせる。
されども透かさずにレインの四番騎が追い縋り、躊躇うことなく袈裟掛けに斧刃を振り抜いた。
『ッ、決めさせてもらう!!』
『…… 拙速だな』
迎え撃つ寡黙な騎士は三番騎の両腕を突き出させ、再度ハルバードの長柄を互いに咬み合わせることで、鋭く重い一撃を肩甲部分の損傷だけで凌ぐ。
それに留まらず、右拳を左斜めに突き上げながら腰も捻転させて、握り込んだままの長柄を傾斜旋回させた。
武骨な斧刃が四番騎の頭上を掠めるように越えた刹那、自騎を大きく一歩踏み込ませると同時、右鎖骨目掛けて得物を逆旋回させる。
「うきゃあッ!」
「ぐべッ!?」
“梃の原理” や躯体半身の発条なども使った強引な円運動に巻き込まれて、レイン達の騎体は大きく姿勢を崩した挙句、さり気なく軸足の内側へ添えられていた三番騎の左脚に躓き、堪え切れずに引き倒されていく。
慌てて立ち上がろうとしても後の祭りで、隙だらけとなったスヴェルF型の四番騎を狙い、半回転させて逆手に持ち替えた得物の穂先が落とされ… 背中側から操縦席がある部位をコツンと小突いた。
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