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審問会の噂と古典音楽

「何故、皇統派の動向を此方(こちら)に?」

「もし貴国が知らない場合、少なくない恩が売れるでしょう」


 “その様子だと御存じのようですが” などと、飄々(ひょうひょう)とした態度で(うそぶ)き、ヘイゼン候の次男坊はわずかに身体を揺らして、着座した姿勢のまま足を組み替える。


 やや硬さを崩した態度で語られた仔細(しさい)によれば… 国境を越える過剰な技術供与や、“滅びの刻楷(きざはし)” との戦闘に派遣している騎体きたいふくめたゼファルス領の現有戦力を(かんが)みて、皇統派主導の元老院はニーナ・ヴァレルを叛意(はんい)ありと見做(みな)したらしい。


「確かに戦力過多だが、異形の浸透を西方三領地で食い止めている現状だと、軽々(けいけい)に呼び戻せないだろう」


「それでも矛先が向くことを恐れる者は多いのですよ、むしろ外敵への対処で足元がおろそかな瞬間を狙い、彼女を叩き潰したい気持ちも理解できます」


 中立派から選出された議員の一部も、その意図を確かめる審問会の開催に賛同しており、暗躍しているハイゼル侯爵の根回しもあって、翌週には女狐殿の招聘(しょうへい)僅差きんさで議決される見込みとの事だ。

 

 だが、貴族としての議席を持っているにもかかわらず、厄介な元老院とは距離を置いていた相手に書状を送っても応じるわけがない。


 すべては茶番劇であり、元老院の命令に従わない事実でニーナ嬢の叛意(はんい)を確定させ、皇統派がゼファルス領に侵攻する口実を作りたいのだろう。


最早もはや(いさか)いはけられないか……」


「当家の領地は異形の支配地域寄りなので、内紛など御免被(ごめんこうむ)りたいものです」

「まさに内憂外患(ないゆうがいかん)ですね、愚かしい」


 隣席で聞き耳を立てていたイザナが小さく溜息したものの、人は思っているよりも合理的にできておらず、良かれ悪かれ欲望や感情に突き動かされる “霊長を名乗る猿” に過ぎない。


 ゆえに皇統派も一枚岩などではなく、どう取りつくろっても内輪の争いであるため、物資や騎体きたいなどの提供はあっても矢面やおもてに立つ者達はしぼられるはずだ。


()()()な話に感謝する、エルベアト殿。其方そちらも聞きたいことがあるんだろう?」


「では、お言葉に甘えて… 首謀者のハイゼル候は内政干渉の(そし)りを受けてまで、貴国は関与しないとたかくくってますけど、その様子だと横槍をいれますよね?」


 さも当然のごとく確認してきた口振りから、此方(こちら)の関心度合いをはかられていたと理解して、先ほど “有意義” という発言をした自身に呆れてしまう。


 今さら誤魔化すのは微妙であれども、相手の自信ありげな表情が少しだけ(しゃく)(さわ)ったので、暫時ざんじ逡巡しゅんじゅんを挟んで曖昧あいまいな言葉を投げることにした。


()したる労力をけず、我が国の利益になる状況であればな」


「どちらでも良いが、フォセス領を抜けるさいしのんでくれよ、騎士王殿。人目に付いてしまえば、私も対処せざるを得ない」


 背後の座席から、面倒そうにラドクリフがげてきた暗黙の了解を受け取りつつ、平時(へいじ)よりも着飾った人々で次第に席が埋まっていく劇場内を見渡す。


「陛下、そろそろ開演の時刻かと思われます」

「ありがとう、フィーネ」


 密談の区切りに乗じて、肩越しに小声で知らせてくれた亜麻色髪の少女に礼をべ、話は此処(ここ)までだとばかりに肩肘の力を抜き、豪奢な貴賓席の背もたれに深く身体を預けた。


 自然な流れで軽く瞑目めいもくすると聴覚に意識が向き、皇統派貴族の次男坊に付き添う女騎士も刻限を理由にして、そろそろ潮時だと助言するのが耳に届く。


「間もなく始まるようです。小難しい話は終わりで構いませんか?」

「あぁ、無粋な真似は止めておこう」


「うむ、貴殿らの話はあくまでも演奏会の()()()だからな」

「すみません、お二人とも。主人は音楽に目がないもので……」


 少々不躾(ぶしつけ)にも聞こえる伯爵殿の物言いを御婦人がおぎなうも、ラドクリフ自身は気に留めず、嬉々とした声で言葉をつむぎ出す。


「今年は帝都ベリルのフィルハイム劇場より楽団を招いたからな、大いに期待してくれても良いぞ、ゼノス殿」


(けい)がそう言うなら、腕は確かなんだろう。演目は……」


 何やら音楽を語り合う筋骨隆々なおっさん達に名状しがたい違和感を覚え、思わず小首をひねっていたら隣のイザナが耳元に可憐な唇を寄せてきた。


 囁かれた諸事情によれば… 数年前、初等教育を(にな)う教会学校から軍校の魔術科に進学したフィーネが反抗期になった頃、義娘との会話が減少してきたゼノスは胃を痛めていたらしい。


 途方に暮れた挙句あげく年端としはもいかない魔術科の生徒達に騎士団長(みずか)ら頭を下げ、何とか聞き出した義娘の趣味趣向に音楽があり、それならばと筋肉繋がりで親交のあった隣国のフォセス伯爵を頼ったそうだ。


「結果、見事に毒されたと?」

「高尚な趣味で結構じゃないですか、私も好きですよ、音楽」


 微笑んだ伴侶はんりょの少女にうながされて手元のパンフレットをながめたが、粗忽(そこつ)な武辺者に音楽の見識などないため、稀人(まれびと)が持ち込んだ異界の楽曲があると教えてくれても理解できない。


 されど幕が開けて流れてきた管弦楽の調しらべは素晴らしく、その中には有名な “G線上のアリア” をふくむバッハの作品が数曲ほど混ざっていた。


(…… 確か、彼はピアノが普及してない時代の人間だったな)


 この世界にける楽器の構成だと、稀人(まれびと)の音楽家が名曲をアレンジするにしてもバロック音楽以前が限界なのかもしれない。


 様々な憶測を立てながらも、興味深く静聴しているうちに演奏会は幕切れとなり、戻った伯爵邸で夕食と歓談を済ませてから、(あて)がわれた客室でイザナと一緒のベッドへ潜り込む。


 その翌日以降はグラウエン大聖堂にある重厚なパイプオルガンを伴奏にした讃美歌や宗教曲、中央広場で有志の音楽家により合奏される世俗曲も御忍びで楽しんだ。


 勿論もちろん、必要最低限の憲兵しか同行させずに高貴な黒髪少女を連れまわしたので、姉代わりでもある隻眼の魔術師を怒らせてしまい、誘いけてきたラドクリフ諸共に大目玉を喰らったのは言うまでもない。


 ()(かく)、次の戦場に備えて羽根を伸ばせた三日の滞在期間は()く過ぎ去り、月ヶ瀬(ルナヴァディス)家の兄妹など郊外待機の騎士や魔導士らと共に俺達は帰還の途へいた。

因みにバッハさんはピアノ曲は一つも書いてません。

あと生まれる時代が20~30年遅ければ、音楽史に変化があったのかも?


『続きが気になる』『応援してもいいよ』

と思ってくれたら、下載の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] さあて、皇統派がどう仕掛けてくるか。
[気になる点] 王様が目立ってしまうのが困るなら、騎体を使わなくても暗殺すればいいじゃない! 信長の野望で頻繁にある、コマンド暗殺を実行 つまり、筋肉モリモリマッチョマンではなくアサシンですればいいの…
[一言] 音楽はいい 他所んちの揉め事はめんどい 義娘のご機嫌取りは大変
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